第2話 出航
新大陸から応援要請の一方。
それにより、ギルドが慌ただしくなる中、俺は本部へと向かっていた。
呼び出しを受けたわけではない。自分でそうすべきだと直感したからだ。
戦闘の際もよくあり、これに命を救われたのは少なくないため、考えるよりもそちらを信じることが多くなっていた。
本部には見知った役員が幾人かおり、こちらの顔を確認すると駆け寄ってきた。
「アキトさん、早いですね。今呼びに向かわせたんですが……」
「悪い。自主的に来た」
「いえいえ、そうですか。ウォレムさんが二階の応接室でお待ちですので先に行っていて貰ってもいいですか? 他の方も呼びに行かせていますので」
そう言って役人は慌ただしく走り去るのを見送り、ギルドの二階へと向かう。
「おう、小僧久しいな、調子はいいか?」
「ウォレムさんお久しぶりです。ご無沙汰でしたけど何をされていたんですか?」
「なに、それについてもいつか説明する」
応接室に入ると狩猟者資格を得て以降、会っていなかった人物がそこにはいた。
座るように促され、ウォレムさんの前に座る。
「あの小僧が今では立派な狩猟者だな」
「……ありがとうございます。今ならあの時他に方法があったんじゃないかと考えますよ」
「そうか。なら成長してるな。まぁ俺は……正直に言えばあの時のことは間違いじゃないと思っているさ。お前と同じ立場なら俺も手を染めていた」
その言葉には少し驚き、言葉が止まる。
「許されないことさ。しかし、狩猟者なら誰もが仲間のためにその時できる最大限に命を懸ける。お前は村全体だっただけだ。まぁ……それに見合った罰はもう受けた。次は約束だ」
「はい」
いつの間にか置かれていたお茶を眺めながらウォレスさんに小さくうなずく。
あの日から、ここに来ることは生きている限り決まっていた。
選択肢などない。気持ちなど関係ない……と、少し前なら思っていたが――
「正直、楽しみです。自分が知らないモノがそこにはあって、自分以外の人が先に見つけているのが悔しい――そんな気持ちです」
案外、素直に出た自分の感情に驚きはしても、否定する感情はなかった。
そうか。とウォレスさんは呟き。
あの日と同じようにニカっと笑った。
「おーい! 酒だ! 宴をはじめんぞ!! 狩猟者らしくな!! 出会いと再会を祝してだ!」
外に聞こえる声でウォレスさんが叫ぶ。
「仕事前だ! 飲むな!!」
と、飛び込んできた受付嬢にお盆を投げられたウォレスさんはそれでも笑っていた。
つられて笑った俺にも受付嬢の睨みが飛んできた。
怖い、怖い。次の時、無理難題な依頼を寄越されては堪ったものではないので受付嬢の味方をしてウォレスさんを止める。
暫くして、役人が何人かの狩猟者を連れてきて説明が始まった。
――救援についての説明だ。
新大陸。
まだ名前はなく、俺が狩猟者となる少し前に見つかったそこは未知の生物、植物などにより生態系が作られた場所であり、現在も調査が難航している場所だと聞いていた。
今回、救援に向かう理由はどうやらそこに超大型のモンスターが眠っているかもしれない場所が見つかり、その探索及び狩猟人員の補強のためらしい。
出発は明日。準備は今日の内にと伝えられ、解散となったが最後にウォレスさんに呼び止められる。
「これを持ってけ、餞別だ」
「これは?」
「極秘だが最近見つかった古代遺跡の遺物だ。効果は知らないがお守りだと思え」
クリスタルの形に宝石がついた首飾りを渡される。
高価そうなので返そうとするが、手で遮られる。
仕方なく、その場で付ける。
「まだ、似合ってねーな」
「なら、返します」
「バカ、お前が似合うようになれ。そん時もう一回見せに来い」
その一言で、ウォレスさんの伝えたいことがわかり、嬉しくなるが顔が綻ばないように引き締める。
向かうは死地だ。油断できない。
「行ってきます」
「行って来い。アキト。帰ったら奢れよ」
「ええ、いくらでも」
それが精一杯だった。
宿泊している施設で装備などを整え、明日の準備を行う。
愛用の双剣は念入りに点検を行い、鎧は強固さよりも動きやすさを重視したものを選ぶ。
その後、準備ができたと思っては何回も同じことを繰り返し、夜が明けるころにやっと仮眠をとった。
翌日、新大陸向けの船に乗り込むと見送りに多くの関係者が来ていた。
その中にウォレスさんの姿はなかったがそれでいいと思えた。
昨日、あんな感じで別れたのに合うのは少し恥ずかしいからだ。
しかし、人だかりの奥、建物の隙間から見えてしまった。
チラチラとこちらを眺めるひげ面のおっさんの顔が……。
ウォレスさん……俺は精一杯見なかったことに努めた。
そして、俺が残念がっていると銅鑼がなり、船が出航し始めた。
新大陸に向けては何とも閉まらない始まりだった。
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