新大陸で狩猟者始めました。

リクルート

第1話冒険前

 何時からだろう? 自分がどこまでできるのかが知りたくなったのは?

 最初は村に出る小型モンスターの被害に怯えるだけだった。村に雇われた狩猟者の教官だった父が倒したそれらを掲げながら笑って、


「いつかお前もできるさ」


 と、言っていたのは覚えている。

 その後、父に戦うことの手ほどきを受けたが、その腕を見せることなく父が亡くなった。

 討伐中の事故だった。

 一緒に行った父の仲間が教えてくれた。

 悲しくていつまで泣いていたのか覚えていないが、涙が枯れたころには、村に新しい狩猟者が来ていた。

 その狩猟者は怠惰を人にしたかのような人物だと今でも思う。

 村に出た小型のモンスターは討伐せず、被害が出始めたら追い払うだけ。

 普段は家で酒を飲んでは寝て、村の女性に狩猟者なのをいいことに脅迫まがいなことを繰り返していた。


 そしてある日、侵入してきた小型だが肉食モンスターに村の人が襲われた。

 狩猟者は酔って寝ており、ゆすっても起きず、使い物にならなかった。

 武器はある。戦い方も知っている。モンスターの癖も知っている。

 あとは……勇気だけ。

 ただ、それだけだった。

 状況もまるでそうしろと言わんばかりに揃っていた。


 僕が――俺がやるしかない。


 父が作ってくれた装備を身に着け、教えを思い出しながらモンスターの正面へ。

 怖くて、逃げたかったが自分よりも恐怖で歪む人の顔を見ると何故か落ち着いた。

 初めての実戦は……とても戦いと言えるものではなかったはずだ。

 振りぬいた武器は空振り、当たっても浅く相手を怒らせるだけ、それでも何度も、何度も、繰り返す。

 いつまでもそうしていたのか、朝焼けから夕暮れに変わり始めるころ、遊び疲れたかのようにモンスターはあっさりと踵を返して森に帰って行った。

 討伐はできなかったが村の人にはお礼を言われ、父の子だけあると褒められたのは嬉しく思い。その時だった――


 バレナケレバイイ――


 そう、心で何かが囁いた。

 父が固く禁じていた、密猟。

 狩猟資格のない者がモンスター討伐を行うこと、モンスターが居る地帯に入ることはギルドで禁じられていた。が、今回のように見張る人間は酔って使い物にならないことが多い。

 いつしか狩猟者が寝ている時はこっそり俺が討伐を行う。

 最初は村の人も苦言を申してきたが、やがて自分に被害が出なくなるならと見て見ぬふりをしてくれるようになった。

 モンスターの素材は村長がこっそり鍛冶屋に持ち込み加工して、町に売りに行き、村のために使った。余った分で俺の武器を整備してくれた。


 数年。


 背が高くなり、垢抜けてきたと周りから言われてきた時期。

 小型、中型を最近では村に寄り付かないように前もって狩り、村に被害が出なくなった頃――それは起きた。

 近頃仕事のない狩猟者がその日は珍しく酒を飲まず、村を見回っていたようだ。

 どうやら、仕事がなくお金が底をついたようで仕事をしてるふりをおこない村長からお金をいただくつもりでの行動だったらしい。

 前までは複数のモンスターだと1~2匹取り逃すことがあり、それを狩猟者が狩ることがあったが……慣れてくるとそれもなくなっていた。

 装備をいつものように村の外において、狩猟者のことなど完全に忘れていた俺はいつもの様に狩ったモンスターを隠して村に運んでいた。


「そこのお前……何だ、それは? それにその背中ものは――」


 声がした。

 酒で喉が焼かれたような聞きなれない声だったが、振り返ると誰の声か理解した。

 その後のことは言うに珍しくなく、狩猟資格のない者がモンスターを狩っていたとしてギルド本部に連行され、村には隠していたとして罰金が決まった。

 悪いことしたとは思ったが、連行される時に村長だけが最後に――


「お前のおかげで死ななかった人間が目の前におる――ありがとう」


 それは、これからどうなるのかわからない俺にとって何よりも、尊い言葉であり、救いとなった。



 本部で洗いざらい自分が行ったことと、なぜそうしたのか? そういった事情をいかつい顔をした狩猟者連中に説明した。途中あきれ顔をされたが続けた。

 それにより、村の狩猟者――最初の問題の際に村長がギルドに手紙を送っていたが取り合ってくれなかった――は交代となり、俺の処分も一緒に決まった。

 密猟者に与えられる罰は例外なく、装備なしでの追放。

 それが決まりだったが…………。


「狩猟者アキトに処遇を伝える。然る後、『新大陸調査の任を与える』」


「それまでは、本部で鍛錬に励むように」


 たったそれだけだった。

 狩猟者。

 密猟者ではなく、彼らは確かに俺にそう言った。耳がおかしくなったのかと思ったが、目の前でニカっと笑うおっさんは嘘じゃないと伝えてくる。


「お前の父は教官だった。幼いながらもお前は手ほどきを受け、合格している。今日まで本部での手続きが遅れていただけでお前は立派な狩猟者だ」


 嘘である。俺は父に合格をもらっていない。死んだ父に手続きなどできるはずがない。

 黒が白へと変わった。

 その日以降、本部で地獄のような日々が始まった。

 来る日も、来る日も討伐、調査、討伐、たまに捕獲。

 いつしか自分はどこまでやれるのかそう疑問に思った。

 ソロでの任務は多いが、情報の少ない大型などは臨時の仲間を組んでの討伐などもあり、自分の力がどの程度なのかわからなかった。

 悶々とする日々を壊すかのようにある知らせが届く。


          ――新大陸からの要請だ――


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