第3話 出会いと再会
新大陸まで4日ほどの日程となっている。
船には狩猟者の他に鍛冶職人、地質学者、冒険者、商人、医者など様々な関係者がおり、それぞれがある程度自由に生活していた。
俺は知った顔が出航のさい見えたので、そいつを探して食堂に来ていたが何故か、一定の距離を置いてだが女性につけられていた。
間違いかもしれないと思い無視をして、目的の人物を探す。
食堂とは言え、大きな樽が机がわり、小さな樽が椅子の代わりをしているため、中はごった返していた。
奥に目的の人物を見つけ、歩を進める。そのたびに横からつぶやきが聞こえる。
「げ、本部だ」
「ちがう、違う、犬だぜ。アレは」
「構ったら、上にどんな報告されるか、わかんねーよ」
「首になった奴もいるしな」
「エリートでもないくせに偉そうにしやがって、脚は引っ張んなよ」
そんな声が聞こえるが右から左に、自分ではない誰かのことだろうと流す。
そして、一人で酒を飲む人物に声をかける。
「久しぶりだな、ルーク。珍しく一人か?」
「おや? 珍しいじゃないかアキト。君から来るなんて、来ないなら僕から行こうと思っていたよ」
「俺が居るのは知っていたのか?」
「ああ。呼び出し受けたエリート部隊とは顔見知りが数人いるからね、あと女の子はみんなピリピリしていて捕まらなかっただけだよ。まぁ、そう言うアキトは珍しく女の子と一緒か――大人になったかい? ついに。紹介ぐらいは頼むよ」
「……何のことだ?」
ルークのよくわからない言葉に疑問を投げながら、小さな樽を置きルークの正面に座ると当たり前のように俺とルークの間に、後ろをついて来ていた女性が座る。
「あ、どうぞ。私のことは気にせず」
「「いやいや、気にする」よ」
「いえいえ、お気になさらず、あ、エールで――」
勝手に座り、あろうことか注文まで済ませた彼女は何事もないように座っている。
ルークに顔を向けるが面白がって、君のつれだろ? と言わんばかりだ。知らないと言ったところで無駄だろうと思い、しかなく関わる。
「あー、取りあえずアンタは誰だ?」
「狩猟者一年目。遠距離職で弓をやっています。名前はメアリーです。気軽にメアと呼んでください」
「……あー、いや。メアリーさんは取りあえず、何でここにいるんだ?」
「えと、なんと言ったらいいのでしょうか? 私、ギルドの強制参加組ですがまだ、死にたくはないんです。だから、その……あなたの傍にいさせてください」
「「…………」」
冗談ではなく、彼女、メアリーは本気でそう言っている。流石にルークもそれはわかったようでメアリーを黙って見ている。
今回のような大型の依頼は量とある程度の質が必要であり、ギルドは参加者を二つに分ける。
昨日、応接室に呼ばれた俺以外の人物は俗にいうエリートであり、この任務に参加するか選べる側――質――だったがメアリーやルークなどは表向きは推薦組と呼ばれ、ギルドからある程度実力があるものは今回の様に名指しで依頼する。
推薦と聞こえはいいが実際は違う。
エリートと違い依頼は断れない。もし断ろうものならギルドを通しての依頼が露骨に受けづらくなるとゆう嫌がらせを受ける。
断った後は、その日暮らしがやっとのようなモノばかりで、狩場を移そうにもギルド全体での行為なので意味はない。ほとんどが密猟者となり、消えていく。
なので、裏では選択肢のない強制組と呼ばれる――量だ。
ちなみにルークは実力はあるが女性関係で査問会からの罰で時々、こうして召集されているのでよく依頼を一緒にしている。
メアリーの受けなければいけない状況にされるのは、同情できるが死にたくないから俺の近くにいる理由はよくわからないのが正直だ。
こちらが困惑しているとメアリーが思い出したかのように付け足す。
「あ、困惑はわかります。その、昔からなんです。何処が安全で、何処が危険なのかこう……視ると何となくですけどわかるんです。それを買われて狩猟者になりましたし」
「あー、たまにいるよね。そうゆうの。うん、理解した。僕は彼女が居てもいいよ。そうゆう勘は大事で好きだからね」
こちらに一瞬視線を向けたルークはそう言い、注文したものを貰いに席を外す。
「その……」
「取りあえずわかった。ここまで来るのに近しいものを感じるのは俺にも何度かあった。それにアンタは危害を加えるようには見えないから、居たければいていいさ。その代り、話には入ってくれよ? 流石に無視してるようでつらい」
はい。と彼女が元気に頷くと共に料理とメアルーのエールと俺のジュースが運ばれてきて、俺とルークが彼女に自己紹介を行う。
「僕の名前はルークだよ。遠距離から女性の心を打ち抜くシューターさ」
「わー、凄いですね。ルークさんがいると誤射されるかもしれないんですね? 気を付けます!」
先ほどまでと打って変わって、暗さがなくなったメアリーはルークの説明に間を開けることなく、そう言う。あまりにも慣れた手際なので、こうゆう手合いには成れているようだ。
おかげで、ご自慢の整った顔がお見せできるものではないほどルークの顔は引きつっている。
反対にしてやったと言った顔でメアリーは垂れていた銀色の髪を耳にかける。なぜだろうただの動作一つなのに艶めかしく感じる。
「それで……」
ちらっとこちらを伺う目を向けられる。
「……ああ、悪い。俺はアキト。メインは双剣だが武器なら何でも使える。よろしく頼む」
呆けているとメアリーから急かされるので当たり障りのない答えを返す。
「はい、よろしくお願いします。先輩!」
「先輩か……照れくさいからアキトで頼む」
「いやです。先輩と呼ぶと決めましたから。決定です!」
気に入られる要素はなかったはずだがルークよりは気に入られているようで、彼女は満面の笑みを浮かべてそう断言する。
もちろんルークは「僕は?」と聞くが「何ですか? ルークさん」の一言でバッサリと切り捨てている。
「まぁ僕も改めて君と冒険できるのは嬉しいよ。このまま3人でチームが組めるといいね。他はクセが強そうだ」
「お前にだけは言われたくないだろう。けど、同感だ。あとは総司令次第だろ。ここではリーダー次第だが」
「他は君にも言われたくないだろけどね。まぁ欲を言えばもう一人近接が居てくれるとこっちも安全だけどね」
「私もその方が嬉しいですけど……ここに居させてもらうだけでもありがたいので欲は言いません」
考えても仕方ないことだと思いながらも周りはどうだろうと、意図的に耳を向ける。
「新大陸の生物は――」
「俺の武器なら新大陸でも――」
「おい、見張りの交代は――」
「このチームなら新大陸でも――」
どうやら同じような会話が繰り広げられているようだ。
安心していいのか、狩猟者らしいのか、それはわからないが言えるのはここにいる全員がまだ見ぬ新大陸に子供のように心を躍らせているようだ。
「ああ、そうだ。アキト、メアちゃん。狩猟者資格貸してくれるかな?」
「どうした、いきなり?」
「あ……アレですね?」
「ちょっと、新しい機能が出来たからね。本当は更新の際教えてもらうんだけど……その反応からアキト、聞いてなかっただろ?」
「まぁ、戦うのに必要ないことだったしな。で、何するんだ?」
「なに、呪術師お得意のおまじないみたいなものだよ。これはかなり便利だけど」
渡した資格証を弄って、ピピッと音を鳴らす。――それ、音が出るのか。
そう思ったがメアリーなどは当たり前のような顔をしているので、顔には出さずに見守る。
「はい、これでお互いに登録できたよ」
「ありがとうございます」
「登録?」
「今までは狩猟数や狩猟した生物がギルドで登録されるだけだったけど、更新されてから新しく仲間の登録ができるんだよ」
「してどうなるんだ?」
「相手が近くにいるか、色で教えてくれるんだよ。ほら、資格の名前の下に僕とメアちゃんが刻まれてるだろ?」
そう言われて確認すると確かに緑色の文字で刻まれている。
「色によって距離が分かるようになっていて、今ぐらいなら緑、もう少し遠いと青、かなり遠いと赤と大雑把だけど便利な機能だよ」
「なるほど、遭難とかには便利だな」
「でも、遭難なんて早々しませんし、どちらかと言うと離れた者同士がお互いに出会う際の指針じゃないかと私は思うんですけどね」
「ロマンあるけど、狩猟者資格の時点でどうかと思うがな」
「べ、別にいいじゃないですか!?」
「メアちゃんは初々しね~」
「からかわないでください!」
と、メアリーには悪いが話の区切りがついたところでルークがエールを上げ音頭を取る。
狩猟者の約束事のようなものだ。
酒は嫌いだがこれは好きだ。
「それじゃ、まだ見ぬ新大陸。再会と出会いを祝して――」
「「「乾杯っ!!」」」
並々注がれた杯がカチンと音を立てる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます