7:そして始まる最期の時
ヨハネスはオークウッドの杖を突いたまま、通りを眺めた。
黄金の尖塔が中心に立つ広場に、たくさんの人々が行き交っている。ヨハネスの魔法で一晩の復活を遂げた、かつてここに生きた人々。
一人の少女が、石畳の道路を歩いて来る。少女はドレス姿で、重たそうに楽器のケースを抱えていた。持ち上げては下ろし、何度も休憩しながら広場に近付いて来る。
「やあ、お嬢さん。良い夜だな」
通り掛かりにヨハネスが声をかけると、少女は驚いたように目を見開いた。
「……こんばんは」
おずおずと返事をする。
「楽器、軽くなったんじゃないか?」
「え?」
「その楽器だよ。持ち上げてみるといい」
少女は驚き、軽々と楽器のケースを持ち上げた。
「……本当だわ」不思議そうに彼女はヨハネスを見た。
ヨハネスは微笑み、首を横に振った。
「気にしなくていい。サービスの一貫だからな。ああ、本当に気にしないでくれ。久々に良い夜だよ、今日は」
少女はしばらくヨハネスを眺めていたが、一礼すると楽器を持ち上げて歩き始めた。
広場の階段に腰かけて、楽器のケースを開く。宝物でも扱うかのように慎重に、少女はケースからチェロを取り出した。
琥珀のような瞳に涙を浮かべて、少女は魅入られたようにチェロを眺める。
少女が座り込み、空を見た。七色の幕に覆われた空を。
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