第14話『そして、フィナーレへ』


 ブーメランのエネルギーチャージを続けるアルテミシアだが、敵に襲撃されたりしていない。


 他のプレイヤーが妨害をしようと言うのであれば、フレンドリーファイアの判定を受けるだろう。そうした事情もあって、敢えてスルーをしているのだ。


 ターゲットはブーメランを持っていない腕にビームライフルを固定、それで対応している。


 そして、エネルギーチャージが完了したと同時にチューブをパージ、ブーメランを偽アルテミシアに向けって思いっきり投げ飛ばした。その勢いはあまりにも高速で、ゲームのデータとしても処理が追い付いていない。


 それ程に彼女の使用した特殊技は周囲の想像以上の展開を生み出している。それを見た周囲は――様々な反応を見せた。


 本来であればARガジェットの必殺技使用時でもデータの処理は正常に行われ、それこそARバイザーで見る事が出来るはず。


 しかし、アルテミシアが放ったブーメランは違っている。明らかにデータのノイズも周囲に発生――バグと受け取られかねないような挙動をしていた。知識のない人間が見ると、クレーム通報をする可能性は高いかもしれない。


「あれは、もしかして――」


 この様子をモニターで見ていたスタッフも、違和感に気付き始めた。ファンタジートランスで使用されているガジェットは、必殺技を含めてもバグが起こるような事はない。


 ロケテストの時でも、大まかな動作不能やゲーム進行に支障をきたすレベルのバグは報告されており、いくつかは修正したはず。


 それなのにバグが発生した。新たなバグなのか、それとも直し忘れなのか――周囲も慌てている事を踏まえると、想像出来るだろうか。


「その通りよ。一部プレイヤーが使用しているものだけではない、ファンタジートランスで使用しているガジェットは試作型――」


「カトレアさん、貴女はなんてものを実装したんだ――」


「しかし、それを実装しなければ、今の状況を打破なんて出来ない――」


「最初から、芸能事務所等が乱入してくるのは想定済みだったのか」


「違うわね。最初から来るのが分かっていたのは、アイドル投資家やネット炎上勢力に代表される――オケアノスで活動が禁止されている勢力」


「マッチポンプとしてファンタジートランスを利用したのならば、貴女のやっている事は――」


「私はあくまでも狂言回しに過ぎない。ある程度の助言はしたとしても、実際に戦うのは――ランカーなのよ」


「カトレアさん、貴女も同罪じゃないのですか?」


 男性スタッフとカトレアのやり取りは続く。しかし、カトレアはスタッフの目を見て語る事はなかった。モニターで展開されている――メインバトルの方が、彼女にとっては重要だったのだから。


「同罪と言うよりは――最初から狂言回しと言う立ち位置ではなく、映画の監督だった――と言うべきか」


 別の男性スタッフが、カトレアに関して語るのだが――その発言に関しては彼女自身も否定はしない。


「ファンタジートランスをプレイするのは、あくまでもプレイヤーの役目だ。最終判断を下すのは、スポンサーやマスコミ等ではない――」


 カトレアは一定のお膳立てをしたのは事実である。しかし、ゲームの最終的な評価をするのはプレイヤー自信にゆだねていた。


 しばらくして、カトレアはトレードマークとも言える賢者のローブをCG演出で消滅させ、インナースーツ姿となる。さりげなく巨乳であり、それは男性スタッフが驚きの声をあげるほどだ。


「プレイヤーに判断をゆだねなくてはならない場所もある。エアプレイ等の勢力が遊び半分で炎上させようとしたのが、今回の事例――」


 カトレアは断言している。彼女の言う事も一理あるのは間違いないが――言い訳なのではないか? そう受け取られても仕方がないのは、彼女自身も理解しているつもりだろう。



 アルテミシアが見せたバグ技は別の意味でも話題となる。まとめサイトではファンタジートランスを欠陥ゲームと煽り、炎上を狙っていた。


 大抵のサイトは芸能事務所AとJの資本金で動いているような物だったのだが――この一連した流れが判明するのも後からだったと言う。


【アレはバグ技ではないだろう】


【バグと言うよりは、処理が追い付いていないと言うべきだ】


【しかし、それほどの高性能ガジェットが出回るものか?】


【ネット上の噂では軍事兵器に転用できそうなレベルの物があると言う話だ】


【ソレは信じがたい。それこそ――ホビー系アニメの世界じゃないか】


【しかし、あれほどの高性能ガジェットが試作されていると言う話は色々な場所で聞く。嘘と決めつけるには――】


 ネット上では、アルテミシアのバグ技に関しての考察や議論も行われている。しかし、そうした状況はゲームフィールド内のプレイヤーには聞こえていない。あくまでも、こうした声もノイズ扱いとしてゲーム内では流れないのだ。


「まとめサイト等が動く事も想定済み。それに――」


 カトレアがタブレットで表示していたのは、大手まとめサイトである。このサイトはARゲームに関してネガティブなイメージを植え付けるとして、オケアノスでは閲覧禁止扱いにされているサイトだ。


 オケアノス内で閲覧禁止になるサイトは、海外系のサイトは当然だが――まとめサイトや大手芸能事務所の運営しているサイトも対象になっている。


 それに関して、芸能事務所側は営業妨害として抗議をしているようだが、ARゲームに対して彼らが起こしている事と変わりないとして却下を続けていた。


「我々の真の目的は――」


 そして、カトレアはタブレット端末に表示されているサイトを別のサイトに切り替えた。


 そのサイトとは、アカシックレコードとネット上で呼ばれているサイトで、様々な情報が載っている。カトレアは、このサイトでファンタジートランスのヒントを得た。


 そして、試作型ARガジェットの導入を決めたのもアカシックレコードの記述を見て、とある懸念を持ったのである。


「コンテンツ流通の正常化――それには変わりないだろう。オケアノスのやり方では、いつか芸能事務所と同じであると非難される。だからこそ――」


 だからこそ――そうつぶやいたと同時にカトレアは、アルテミシアの演奏している場面を見て思った。


「我々は、独自のやり方を行わなくてはいけない。仮にベースはアカシックレコードだったとしても、まとめサイトや一部メーカーの様なやり方ではなく――」


 アカシックレコードをベースにファンタジートランスを生み出した。それは間違いない。カトレアも、そう自覚している。


 内容を有名ゲームのパクリ等とプレイせずに非難し、それをネットで炎上させる勢力――。そうした勢力を完全駆逐するのがコンテンツ流通の正常化に近づく、そうカトレアは思っていた。


 しかし、カトレアは気付かない内に様々な重圧等の影響で考えが歪み始め、次第に芸能事務所AとJの思う壺になっていたのかもしれない。


「あとは――私ではなく、プレイヤー自身が決め――?」


 自分の役目もここまでか――そう考えているカトレアだったが、ある映像を見て――。


「どういう事なの――これは」


 表示されているゲージがバグでおかしくなったのだろうか? 明らかに偽アルテミシアのゲージは回復していたのである。


 本来の仕様では、ボスが回復する事はあり得ない。ハンティングアクションやFPS等では回復アイテムもあるかもしれないが――これはあくまでもリズムゲームだ。



 2分を経過した辺りで、偽アルテミシアの方が若干ネタ切れをしているように見えた。所詮はゲームのボスキャラ、パターンが分かってしまえば怖くはない。それは偽物も同じの様である。


 しかし、パターンが分かっても簡単にいかないのは――アルテミシアがラスボスとして設定されているからだろう。


【アレを攻略できるのか?】


【別のボスもいるようだが、どれが簡単という事はない】


【しかし、アルテミシアはラスボスの中でも上位に該当している。パターンが分かっても勝てるとは――】


【ゲームとしては絶対勝てないや無敵が横行するのは――さすがに考え物だ】


【クリア不能は一番やってはいけないだろう】


「実況スレでもあるが、クリア不能はさすがに――引くな」


「他のボスだったらクリア可能なのでは? アルテミシアはハズレ――」


「そうとも限らない。確かにステージ3のボスはランダム要素もあるが、引き当てる方法がない訳ではないだろう」


「リズムゲームで隠しボス曲を出現させるのに、相当の実力がないと出現させられないのと同じか?」


「そう考えていいだろう」


 アルテミシアとのバトルを見ていたギャラリーは、色々な事を思うだろう。それは動画を視聴しているユーザーも気持ちとしては同じだった。


「こっちでやる事は終わったし、あとは――」


 モニターを見ていたアロハシャツの男性、彼は中継全てを見終わる前にセンターモニターを離れる。彼にとっては、今回のバトルは目的ではなかった――ようにも思えるが、真相は不明だ。



 アルテミシアの攻撃には端的に分けると2種類ある。一つは遠距離射程のビーム攻撃、もう一つは近距離の真空刃を発生させる物だ。


 ビームはパターンさえ分かれば怖くはない。既に一部のプレイヤーは見切り始めている。


 問題は、真空刃の方だろうか。こちらは出現パターンが不定期であり、1分が経過した辺りでも撃ってくる事はなかった。


 向こうの体力ゲージが減った辺りで発動する所を踏まえると、一定のダメージを与えた際に撃ってくるのかもしれない。


「パターンは何となく分かっても、楽曲の演奏をしつつ攻撃をよけるのは――至難の業ね」


 アルストロメリアは、改めて思い知る事になった。リズムゲームだけでなく、アクションゲームとしての要素を持っているファンタジートランスのシステムを――。


 単純にリズムゲーム要素をアクションゲームに足しただけと慢心していたプレイヤーは、その恐ろしさを知った事で次々とリタイヤしている事実。残りプレイヤーの数的な部分を踏まえれば、このゲームの難易度は一目瞭然だったのに。


 普通のリズムゲームでは汗や疲れの影響で操作感覚が狂う事もあるが、ARスーツは疲れにくい材質が使われていたりするので問題はない。ある種のご都合主義スーツと言われるかもしれないが、それは今更と言えるだろうか。


「ビーム攻撃は単調としても――」


 アルストロメリア以外もこのフィールドで起きている異変には気付き始めていた。バグ技だけでなく、ラスボスのライフ自動回復や無尽蔵なライフ量――。


 明らかにこのゲーム内に閉じ込めておこうと言う気配さえ感じられたからである。一体、このゲームの開発者は何を考えているのか? その一方で、閉じ込めると言う部分は間違っていないが別の説を考える人物もいた。


「単純に閉じ込めると言っても、こちらが閉じ込められたのではなく――偽のアルテミシアを封じる狙いがあったとしたら?」


 これに気付いていたのはシナリオブレイカーである。何故、この考えに至ったのか? 単純にポジティブな意見ではないようだが。


 彼女の眼も――ある意味で偽のアルテミシアに対して、何かを感じているように思える。今の所は真空刃も2回しか披露しておらず、直撃したのはモブプレイヤーだけだ。


 仮に回数制限があったとしても、その威力は一撃必殺なので――回避する事が必須だろうか?


『我を閉じ込めるだと? そのようなことは不可能だ――』


 あまり喋る事のなかった偽アルテミシアが久々に台詞を発した。むしろ、向こうが正体バレを回避する為に下手に発言する事を回避していたのかもしれない。


「不可能ではないわ!」


 アルストロメリアはビームライフルを展開し、連続発射でターゲットに命中させていく。この攻撃が命中した事で偽アルテミシアのライフは減っていくのだが、何かがおかしいように思えた。ライフゲージと数字化されたライフが矛盾しているのである。どちらが正しいのかは――。



 その一方で、中継映像を草加駅近くで見ていた人物がいた。先ほど、神と名乗る動画投稿者を撃破した霧島(きりしま)である。


 彼女は別の意味でも今回の事件には何か別の存在が絡んでいると感じていた。芸能事務所なのか、それともさらに上の存在なのかは――憶測でしかないが。


「有名になりたいと言う人の欲望を、芸能事務所が悪用し――ここまでの事をやるとは」


 彼女は周囲のギャラリーの視線を含めて、ファンタジートランスを巡る事件が全て仕組まれているのではないか――と考えた。


 表情はARメットを被っている関係で周囲のギャラリー確認はできない。しかし、落ち着かないような右足でリズムを刻むような足踏みを見ると、どのような状況なのかは察する事が出来る。


「これを広告会社と芸能事務所が組み、更には海外進出――呆れてものが言えなくなるわね」


 海外進出――と口に出した段階で、霧島の怒りは爆発寸前と周囲も察し、霧島から離れていく。


 しかし、ここで自分が暴れてもARゲームの印象を悪くするだけと思っている。その為、下手に行動できないのが痛い。


 過激派ファン等は、そうした周囲の警告を無視して暴れまわり――その結果として、芸能事務所AとJのアイドルが日本に誇るコンテンツであると言う最大の勘違いを起こすのだ。


「結局は――WEB小説で言及されていたフィクションを現実化し――」


 霧島はこの状況を見て、別のデジャブを連想させたのだが――これを今のタイミングでSNSに拡散しても同じ事になる。


 デマがSNSで拡散する速度は真実の拡散よりも速い事が過去に実証されており、それを思いだしていた。


「止められるのは、現在プレイしているプレイヤーだけなのも――悔しいけど」


 霧島の右手は若干だが震えている。スマホ等も握っていないので、それに亀裂が入る事もないのだが――。

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