第7話『ファーストステージ』その4


 未だにパーフェクトを達成した事に関して実感が沸かないまま、アルストロメリアは矢印の指示に従うように次のエリアへと移動を始めた。


 いつまでも同じエリアに定住していても、時間だけが過ぎていくのは分かっており、それをやったとしてもクリアできるとは思えない。先へ進めるようになったのであれば、先に進むのがセオリーと言える。


「パーフェクトは――」


 未だに思う部分もあり、本当に実力で取れたのかも疑わしい。それでも、アルストロメリアは先へと進む。今は、ゲームクリアの方が優先すべき事だから。


「まずは次のステージへ行く事が――?」


 ふと、アルストロメリアは気付く。ステージクリア後、バイザーに表示される矢印の指示で進むのだが、相手プレイヤーの姿を見ない。


 城門前ではプレイヤーもいたのに、ここでは誰も見かけない。別のルートを進んでいる可能性もあるし、自分のスコア的な意味もあるが。


 ライバルプレイヤーは出てくるが従来のリズムゲームのようにマッチングしているのみと考え、先を急ぐ事にする。


 最初の時間のみは無料と言う事にはなったが、それでも時間切れになったらゲームオーバーなので――時間を無駄にすることはできなかった。



 アルストロメリアから遅れる形で霧島(きりしま)もログインを行った。プレイ料金は電子マネーで決算する事に――。


 電子マネーの場合は、クレジット投入と違って手軽に使えてしまう部分で難点があるのかもしれない。


 ソシャゲにおけるガチャの様なシステムもないので、そこまで深刻に捉える必要性はないと思う。


「さぁ――始めるわよ!」


 霧島の表情は、ゲームにログインしたと同時に一変する。まるで、ゲームをプレイしている時は人が変わるような――。


 先ほどのアルストロメリアの事例もあるかも知れい名が、そちらとは異なる可能性も高い。


 プレイする楽曲は難易度レベル3の楽曲で――前作にも収録されていたクラシック系楽曲である。


 クラシックと言っても、和風アレンジや洋風アレンジ、トランス化と言ったようなアレンジ方法があるように――この楽曲は、リズムゲームならではの独自進化を遂げていた。


「ジャンルが読めない――」


「一体、どうなっているのか」


「クラシックアレンジはリズムゲームでも定番だが、これは――」


 センターモニターで霧島のプレイを見ているギャラリーも別の意味で驚かされた。


 他のプレイヤーがプレイする楽曲が大抵は新曲メインであり――聞き飽きたと言うのもあるのだろう。


「これは――面白い事になりそうだ」


 霧島に遅れる形でログインした人物、彼女は霧島のストーカーと言う訳ではない。

その一方で、彼女の狙いは霧島ではない。あくまでもアルストロメリアだ。


「後は見つからないように、目立たないように追尾するだけだな――」


 彼女が選曲したのは難易度レベル2之楽曲で、現段階で選曲1位のトランス曲である。


 これならば、他のプレイヤーもプレイしているので、よほどのスコア出ない限りは目立つ事もないだろう。



 ファーストプレイの段階で、既にパーフェクトではないがいきなりのフルコンボを決めて――周囲を沸かせた。


 パーフェクトは判定も含めて完璧なのに対し、フルコンボは判定で若干のずれが生じたがターゲットを1個も見逃さず、全て命中させた事になる。


「さすが霧島と言うべきか」


「あの性格さえなければ――と思うが」


「しかし、その性格があってこその彼女だ。それがなければ単純にネットジャンキーやアフィリエイター等と同じになる」


 霧島の性格、それはバトルマニアである事だった。しかも、ARゲーム限定で。


 対戦格闘のような対人戦が絡むジャンルと、対人戦ではなくソロプレイがメインになるものでは……性格の変貌度合いがは異なるのだが。


「他愛もないわね――次よ、次!」


 霧島は矢印の指示に従ってルートを進む。該当するルートには、誰もプレイヤーがいない。それでも、霧島は周囲の光景を気にすることなく先へと進む。



 アルストロメリアは、ふと矢印の指示とは別にルートを発見する。矢印は直線指示だが、左手の方向には何か扉の存在があった。鍵がかかっている訳ではなく、すぐに開きそうな気配――。


《この先は危険。引き返せ》


 謎のメッセージがARバイザーに表示される。おそらくは、ビンゴだろう。扉には鍵がかかっている気配もないので、そのまま突撃すると、扉は何の苦労もなく開いた。


「こういうエリアは、一部のARゲームでは課金アイテムで扉を開く作品もあったような――」


 周囲を見回すアルストロメリアは、奥に何かがあることを確信していた。そして、奥には謎の超人をモチーフにした石像が立っている。


 その石像の右手には何かの宝玉が置かれていた。アクションゲーム的には、アレを破壊するとアイテムが入手出来る可能性も――と言うのがお決まりだろうか?


 しかし、現実は都合よく事が運ぶとは限らない。宝玉を破壊しようにも、硬過ぎて壊れないのだ。つまり、入手の為には何かの楽曲をプレイしてクリアする必要性があると。


《楽曲を選んでください》


 ARバイザーに表示されたメッセージ、その内容は考えるまでもない。アイテムを手に入れたければ、リズムゲームで勝利せよ、と言う事だ。


 何故、このパターンが続くのか――アルストロメリアは考えたのだが、考えるよりも身体の方が動くと言うパターンである。

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