第7話『ファーストステージ』その5


 アルストロメリアが警告メッセージを無視して入った部屋、そこには右手に宝玉を持った石像が置かれていた。


 部屋と言う割には広いスペースがある段階で、この部屋がチュートリアルでも言及されていた隠しステージと気付くべきだったのである。


《楽曲を選んでください》


 ARバイザーに表示されたメッセージ、その内容は考えるまでもない。早い話が、アイテムを手に入れたければリズムゲームで勝利せよ――。何が手に入るのかは、このゲームに勝たないと分からないだろう。


「リズムゲームでアイテムと言うのも、何か引っかかるけど――」


 どういったアイテムが入手出来るのかはジャンルの傾向で分かるが、リズムゲームでアイテムと言うのは聞いた事がない。


 据え置き型や携帯機でプレイヤーを助けるようなサポートアイテムはあるにはあるだろう。


 しかし、アイテムがなければクリア不能と言う難易度のリズムゲームは、ユーザーに嫌われる可能性――と言わなくてもスルーされる可能性は高い。


「でも、ここで楽曲をプレイしていて――間に合うのか?」


 アルストロメリアが慌てるような事はない。最初のプレイは無料プレイと言うのもあるが――。


 そして、楽曲セレクトでは先ほどとは信じられないような光景を目撃する事になる。


「何――この難易度の差は?」


 あまりのかけ離れた難易度には、コメントをする気も失せる程。難易度は4~10まで存在した。


 ファンタジートランスの最高難易度がどの位なのかは不明だが、今までプレイしていたトランス系のゲームでは20辺りが上限に設定されている。


 その昔は10段階や12段階で設定されていた機種もある一方で、ARゲームでは難易度設定は10段階がスタンダードだった。


 結局、アルストロメリアは難易度レベル5之楽曲をチョイスする事になる。これに関しては、下手に時間をかけたくないのと、演奏失敗した際のリスクを踏まえての難易度調整だった。


 選曲を終えたアルストロメリアは、周囲のフィールドが変化している事に気付かない。それ程に集中をしていると言うべきなのか?


 あるいは、ARゲームと言う事で開き直ってしまったのか? その詳細は本人にしか分からないだろう。


「難易度の差は――プレイスキルでフォローするしかない。今は――」


 アルストロメリアが慌てているような様子はない。今は、このプレイに全てを賭けるしかないのだから。そして、楽曲のイントロが流れた時――演奏は始まった。



 今回の楽曲はジャンルとしてはファンタジーと表示されている。しかし、ファンタジーと言うには剣と魔法のRPGで流れるような物ではない。


 明らかにジャンル詐欺と言われてしまうのでは、と周囲のギャラリーが思う様なテンポの楽曲だからだ。


 さすがにファンタジーでラップとかDJバトルはしないだろうし、唐突な空耳ネタも使われないし、ネタ曲ではないだろう。


 周囲の不安は、そう言った部分におけるジャンル詐欺を指している。しかし、アルストロメリアが懸念しているのは、そこではない。


「ピコピコ系のサウンドではない――と言う事は――」


 使われている音は、明らかに電子系のソレなのだが――ピコピコサウンドの様なものではない。


 比較的に新しい音が使われているように思える。それを踏まえても、何故にジャンル名はファンタジーとだけ記述されているのか?


「つまり、こういう事――」


 咄嗟の反応速度で、アルストロメリアはある部分をクリアした。それは、序盤の難所と言われている大量のターゲットが出現する地帯。


 リズムゲームだと、一種の発狂譜面と言われるような構成だが――アルストロメリアには、それが即座に分かっていたかのような反応を見せたのだ。


 シールドビットを展開し、ターゲットへ正確に命中させる様子は精密機械とも言えるだろう。先ほどのパーフェクトプレイとは違い、いくつかは取りこぼしているようだが。


【先ほどのパーフェクトは偶然だった?】


【譜面のレベルが違いすぎる以上、単純な比較は厳禁だ】


【そう言う物かな?】


【リズムゲームの場合は上級者譜面のプレイ動画等が、再生数の多い動画になるだろう――】


【しかし、彼女のプレイスタイルは誰かに似ているような――】


 中継映像のコメントには、様々なコメントが流れている。俗に言う実況と似たような物だろうか?


 リズムゲームと言うジャンル自体、どの時代から状況が変わったのだろうか?


 アルストロメリアのパーフェクトプレイに沸いたと思ったら、別の中継映像で華麗なプレイを見せる霧島(きりしま)の反応が高くなっている。


 やはり、リズムゲームには一定のプレイスキルが必要なのか? 初心者プレイヤーお断りジャンルなのか?


「やはり――彼女の正体は、あのプレイヤーなの?」


 中継映像を運営本部のモニタールーム、そこに準備されていた更なる個室で確認していたのは、カトレアである。


 賢者のローブを含めた外見はそのままなので、おそらくは個室ではARフィールドが展開されている可能性は否定できない。


「アルストロメリア――本当に何者――」


 ARゲームで複数ジャンルを制覇したプレイヤー、プロゲーマーも平等にARゲームは迎え入れている傾向が高い。


 しかし、一部ジャンルでは特定ユーザーの悪質プレイが目立ち、炎上する傾向がある。それがチートプレイなのは、過去の事件を見れば明らかだが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る