第7話『ファーストステージ』その2


 アルストロメリアが選んだ楽曲は、難易度1の楽曲であるが――それを選んだ事で周囲から冷たい視線が当たる事はない。


 そんな事をすればブーメランするのが分かっているのは、周囲のプレイヤーだけではなかった。


「楽曲は選んだが――この曲は新曲のようだな」


 選曲したのは新曲であるが――ランダム選曲した訳ではなく、自分で選んだ曲だ。

従来の楽曲を調べる手段はソートの順序を変える等の手段もあったが、手っ取り早くプレイする為に――。


 そして、選曲確認が出来たらしく、目の前の城門は開いた。どうやら、選曲する事が条件だったらしい。同じ曲を選んだ人物はいないようで、アルストロメリアが単独で城門をくぐる。


「この先に――答えがあるのか」


 アルストロメリアは何かを求めているようでもあった。その答えがどのようなものであろうとも、受け入れるかどうかは分からない。


 しかし、自分で踏み込んだ領域である以上は――全力でぶつかるつもりでいる。


《ファンタジートランス》


 曲名も作品名と同じ、ファンタジートランスを彼女は選曲していた。


 作曲者は彼女がチェックしていなかったが、無名や匿名と言う訳ではなく――明記されていたと思われる。


 城の内部は、明らかに西洋で統一されたデザインではない。ミリタリーやSFも混ざっていそうな構造をしている。


 別のゲームでミリタリーやSF系のリズムゲームもあったと記憶しているが、混ざっているとは予想外だった。


 リズムゲームの楽曲もその作品のテーマとも言える曲は、初期に実装されている新曲だけと言うパターンもある。中には、隠し曲が電波だったり萌え重視な楽曲――と言うのも稀にあるだろう。


《プレイ方法に関しておさらいします》


 ARバイザーには、プレイ方法のおさらいとメッセージが表示されている。


 既にチュートリアルをプレイ済だが――あえてメッセージスキップはしなかった。


《出現するターゲットは、タイミングに合わせて攻撃する必要があります》


 ターゲットは楽曲が流れている際に出現する的の様な物だ。リズムゲームだとノーツだったり、それ以外の専用ワードが使われる。


 タイミングと言うのは、ARバイザーにも表示されているが――丸い形をした中央のポイントにターゲットが重なるタイミングで、ARウェポンを使って演奏するらしい。


 演奏と言うより、この場合はターゲットを撃破すると言った方が手っ取り早いのかもしれないが。ジャンル的な意味でも。


 バトル物で戦闘中に歌を歌ったりするアニメはあったし、そう言ったノリと考えるべきだろう。


《――青いリズムゲージが0になった時には、演奏失敗となります。再トライが可能ですが、その分だけ次のステージへ進む為の時間を消費する事になりますのでご注意ください》


《このモードでは、スコアが優先されますので――スコアの上昇と共にゲージが上昇していきます》


 青いゲージはリズムゲージで、俗に言うHPのようである。これが0になると演奏失敗、曲が流れている途中でも強制終了となる。


 ゲームによってはゲージが一時的に0でも回復チャンスがあるのだが、ファンタジートランスではハードゲージでもない限りはスコアが優先される仕組みだ。一定のスコアに到達すれば、このステージはクリアとなる。



 その一方で、カトレアの捕まえたサーバールームに侵入者の正体――それはまとめサイト勢力とも言える存在だった。


 まとめサイト自体が既に黒歴史化して忘れ去られているともカトレアは考えていたが、そこまで古い存在にはなっていないようである。


「お前達は、あのアルストロメリアがどのような人物なのか――知らないだろう」


 まとめサイト管理人は情報提供を条件に、自分を解放するように――と言葉巧みに誘導しようとするが、カトレアはそのような手には引っ掛からない。


 ガーディアンの中には、まとめサイト管理人の言葉に動揺している人物もいるようだが、少数に過ぎないだろう。


「ARゲーム運営が特定プレイヤーに肩入れするのは非推奨――それを知らない訳ではないだろう」


 カトレアも疑問をぶつける。特定プレイヤーへ肩入れするのは、公平性と言う部分で推奨されない。


 しかし、データエラーでゲームがプレイできない状態だったアルストロメリアに手助けをしたのは事実であり、彼は、それを言っているのだろう。


「確かに、ARゲームで特定プレイヤーに肩入れするのは推奨されない――ソレは知っている。プロゲーマーとか、実況者等とのステマ疑惑をもたれないようにする為にも」


 彼の方もボロを出す訳にもいかないので、ある程度疑われない程度の回答はするだろう。当然、それをカトレアも知っている。


「あの時の対応を指して不公平と言うのであれば、それは筋違いと言う物だ。あれは彼女がゲームデータの引き継ぎを下なかったからこそ――」


「確かに、ヘルプとしてアドバイスするのはルール違反ではない。しかし、その後の対応はどうだ?」


「ガジェットを渡した事が、悪いことだと言うのか?」


「そうとは言わない。しかし、お前達は後悔する事になる。彼女の正体が――」


 次の瞬間、まとめサイト管理人は密かに実体化させていたARウェポンを展開する。その武器は、まさかの物だった。


 それを見たと同時に、カトレアが指を鳴らそうとするが――間に合わないだろう。しかし、ARウェポンが起動する事はない。この場所がサーバールームだと言う理由もあるが、それ以上にARウェポンでも――。


「大量破壊兵器に該当するカテゴリーの武器は、禁止部類になる。それを――考慮すべきだったな」


 カトレアはまとめサイト管理人が使おうとしていたガジェットを見て、ため息をつきながら言及する。


 小型タイプとはいえ、その武器の正体は、特殊なウイルスを散布するグレネードだった。


 それがどのような物を散布するか――カトレアの方も容易に想像出来る。観光客が集まる場所で使われたら、それこそアウトな部類だろう。


 しかし、まとめサイト管理人を逮捕したとしても、これで全てが解決するわけではない。彼が言おうとしていた事、それは何だったのか?

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