第7話『ファーストステージ』


 他のプレイヤーも向かっている先、そこには明らかにファンタジーな城門があるのだが――扉が閉まっている。先ほどまでは開いていたような気もするのだが――気のせいか?


「扉が開かないのはどういう事だ?」


「さっきまでは開いていたと思うが、定員オーバーなのか?」


 他のプレイヤーも足止めされているのだが、足止めされているメンバーの中には、有名プレイヤーの姿はない。


 どうやら、別のルートを発見していると思われたのだが、そうではないようである。その理由は、ARバイザーの表示にあった。


《楽曲を選曲してください》


 まさかの表示である。そう言えば、リズムアクションゲームだったと気付かされる瞬間だった。


 他のプレイヤーが選曲を終了すると城門が開き、そのプレイヤーだけが城の中へ入る事が出来る仕組みの様である。


「楽曲と言っても――?」


 ARガジェットで選曲画面を表示するが、曲の難易度を見ると――どれも低めに設定されている様な気がした。


 選曲の順序をオプションで調整した結果、表示されている楽曲の難易度は1~4で統一されていたのである。


 これでは、アルストロメリアの目当てとする楽曲が出てこないのも分かるだろうか。彼女が探していた楽曲は、難易度5に該当していた。


「ARガジェットの様子を見る為にも、ここは従うべきか――」


 選曲に時間制限は存在しないが、プレイ時間は減っているのだ。選曲で10分もかけた場合――時間の無駄と突っ込まれかねない。


 結局、難易度5の曲も発見できそうな状況だったが、仕方がないので難易度1の曲に絞り込んでプレイする事にする。


 難易度レベル1でも30曲近くあるのだが、その全てがオリジナル楽曲に該当する物だった。


 リズムゲームは、基本的にオリジナル楽曲とライセンス曲が混ざっているのが主流である。その一方で、オリジナル楽曲オンリーと言う機種も存在していた。


 オリジナル曲のみでは新規プレイヤーを集めづらいという理由で、人気のライセンス曲を入れる――そう言った事情も存在するが。



 その一方で、既に楽曲を選曲して最初のステージをクリアしている人物もいる。演奏失敗したとしても、そこでゲームオーバーになる事はないので、ここで演奏失敗をしても再トライするプレイヤーもいるのだが。


「ここは余裕と言うべきか――序盤で転倒していたら、この先は――」


 難易度レベル4の中級者向け楽曲をクリアしていたのは、シナリオブレイカーである。


 彼女の剣さばきは、楽曲ともシンクロし――他のプレイヤーが驚いたほどだ。センターモニターで中継を見ていたプレイヤーも、彼女の動きには言葉を失っている。


 それ程に、彼女のスキルは想像以上、そのテクニックは敵に回したくないと考えるプレイヤーが多く――ネット上でも危険視されている一人でもあった。


 彼女の実力は、スタッフ内でも把握している人物がおり――プロゲーマーに相当すると考えている者もいるほど。


 しかし、本当にプロゲーマーであればシナリオブレイカーと言うハンドルネームでエントリーしたりするのだろうか?


 ネット上でも都市伝説や様々なまとめサイトで色々と良くない噂が飛ぶような存在、それを好き好んで使うなんて思えない。


「プロゲーマーであればライセンスナンバーなどが登録されて――!?」


 潜入していた男性スタッフの一人が、サーバールームでデータを調査した際――驚きの経歴を発見した。


 それは、あるゲーム大会で優勝したというログである。何故、このログが存在するのか? スタッフは疑問に思う。


 サーバールームは横幅で3メートル位の広さが確保されているだけでなく、スプリンクラー等の防災設備も完備されている。


 ソシャゲのサーバールームがどのような狭さなのかは不明だが、予想以上に広々としている場所にスタッフは驚いていた。


 しかも、置かれているサーバーの数は数百や数千と言う単位ではなく、わずか60台程度という少数。


 この光景や設備にも驚きなのだが、本当にこの数で莫大なデータを処理できるのか?


「あなたは――そこで何をしているのですか?」


 そうした彼の疑問は――背後数メートルまで近づいていたカトレアの存在に気付かないほど深刻な物だったようだ。彼女が声を出した事で、男性スタッフも気付き――警戒態勢に移行する。


 そして、何かに気付かれた事を男性スタッフは悟り――スマホでスクリーンショットを撮ろうとするのだが、サーバールーム内ではスマホが使えない。


「どうやら、ジャミングフィールドの事は知らないようですね――だとすれば、あなたの正体は何者ですか!?」


 カトレアは何もない空間からビームダガーを数本召喚し、それを男性スタッフに向けて飛ばすのだが、それは瞬時で無効化された。


 ARウェポンがARフィールド以外で使用できない事を向こうが把握しているようにも見えるが、カトレアの方は逆に試している可能性が高い。


「そのダガーはフェイクか? それとも、デスゲーム禁止に引っ掛かると言う事で取り下げたか」


 向こうの方も若干の事情は知っているようだが、言葉を選んでいるような仕草が見られる。おそらくは、もう少し――。


「どうやら、こちらも油断をしていた――と言うべきか」


 カトレアが右手を男性スタッフの方に向け、更には指をパチンと鳴らす。男性スタッフは、カトレアの行動に驚く。


 そして、次の瞬間にはガーディアンと思われる警備兵が男性スタッフの周囲を取り囲んだ。まさかの展開と言うべきなのか――。

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