第5話『ニューガジェット』
カトレアから放たれた一言、それはアルストロメリアにとっては衝撃だったのかもしれない。
「ARアーマーのデータが一部破損したらしく、それの修復で時間がかかった――と言える」
「一部破損?」
「破損の規模はゲームに支障はない。ARアーマーは持ち越せないのがシリーズの通例だから」
「アーマーって――引き継げないの?」
アルストロメリアにとっては思い入れの深いアーマーと言う事もあり、衝撃度合いが大きい。
元々、このシリーズはアーマーのデザインが独自の物であって、反響のあったアーマーは続編でも引き続き登場する。
「引き継げるのは一部だけであって、あなたのアーマーは該当しないのです」
「せっかく、ここまでレベルを上げたのに――」
「プレイデータに関しては無事に引き継ぎが終わっています。アーマーのカスタマイズが終われば――無事にプレイできますよ」
「アーマーのデザインが気に入っていたのに――どうして、引き継げないの?」
アルストロメリアにとっては愛着あるアーマーだったのが、彼女の動揺具合を見れば一目瞭然だ。
一部のコラボアーマー系は権利的な事情で引き継げないケースが多く、ファンタジートランスでも引き継ぎ対象外になっているコラボアーマーは存在する。
しかし、アルストロメリアの使用していた物はコラボ系ではなくて普通のパワードスーツ系――削除されるとは到底思えない。
「どうしてもですか?」
彼女は、このアーマーに愛着があった。しかし、ファンタジートランスでは実装されていない。未実装のアーマーを使おうとすれば、先ほどの様なエラーが発生するだろう。
「どうしてもというのであれば、復刻と言う手もあります。現に、三月にも復刻要望があったガジェットが復刻した事例もありますが――」
カトレアも彼女の熱意に押し負けるような形で、妥協案を出す。
「簡単に復刻を説明すると、リズムゲームにおける削除曲が復活をする事例です。それのARアーマー版と言えば――」
「なるほど。そう言う手もあるのか」
アルストロメリアも一応は納得するが、それでも――愛着があるのは変わりない。妥協が可能ならば、妥協をするだろうが――。
「しかし、復刻には一か月位はかかるだろう。人気投票的な意味で――という理由ではないが」
これだけはどうしようもないという現実もあった。アルストロメリアも公式サイトのチェックを忘れていた事もあり、ここは妥協する事に。
そして、カトレアが用意したのはニューガジェットである。しかも、形状は――。
カトレアがアルストロメリアに妥協案として見せたのは、ARアーマーである。直接表示するのではなく、タブレット端末に表示させている物だが。
そのデザインは、何とアルストロメリアが今まで使用していたパーワードスーツのリファイン版とも言える物だった。
「アーマーのデザインとしては、いわゆるマーク2に例えられるような物だが――」
使用している武装に関しては表示がないが、これはアーマーだけと言う事らしい。武装はそのまま――引き継ぎが出来るようだ。
アルストロメリアは妥協案がもっと別なものと思っていただけに――これは一種のサプライズと言う事になったようである。
「それと、こちらの方も渡しておく――今作で使用するガジェットだ。こちらでは暫定的にトランスガジェットと呼んでいる」
手渡されたのはスマートフォン程の大きさのガジェットだった。本来であれば、定価は5000円位するであろう新型ガジェットだ。
今まで使用していたガジェットは修理に時間がかかるようで、こちらにデータを移したという話らしい。
「そのガジェットの使い方は、マニュアルが一緒にインストールされているから――って、聞いているのか?」
カトレアも若干呆れかえるほどには、トランスガジェットを渡されたアルストロメリアの目は輝いている。
まるで、新しい玩具を与えられた子供みたいだ。さすがに――子供と言う表現は正しいのか不明だが。
「とりあえず、このガントレットに接続する事が出来る。それを使えば――アーマーも使用出来るはずだ」
カトレアの言われるがままに手渡されたガントレットを右腕に装着する。ガントレットは左腕用もあったのだが、彼女は右腕用をすぐに装着した形だ。そして、トランスガジェットの起動画面を確認後――。
《ARアーマーを起動しますか?》
ゲームプログラムがないのに、まさかのアーマー起動アナウンスが出た。これには、カトレアの方も驚いている。
アルストロメリアは、さすがにすぐは起動せず――画面上にあるファンタジートランスのアプリを起動してから、該当するアイコンを改めてタッチした。
《ARゲームの起動を確認しました。ARゲームをプレイする為にはARアーマーが必要です。アーマーを起動しますか?》
本来であれば、これが正しい表示だ。先ほどの前提メッセージなしで即座にアーマー起動を問いかけるのはおかしい。
この場所がARゲームのフィールド外のはずなのに――である。一体、このガジェットは何の為に作られたのか?
そして、指示通りにアーマー起動をし始めるアルストロメリアは――瞬時に何かの光に包まれる。
特撮的なフィールド演出後、10秒も経過しない内にアーマー装着が行われ、彼女が気が付いた頃にはアーマーが装着完了していた。
そのアーマーはSF物にはよくあるような形状だが、青いラインやクリスタルが特徴で、更にはバックパックにはブレードが二本装着されている。
バックパックにはレールキャノンが二丁、更には何かのパイプも確認出来るのだが、このガジェット自体には見覚えがない。
「一応、ファンタジートランスのガジェットはいくつかの部分でリニューアルが施されている。使い勝手は、前作と変わりないはずだ」
カトレアはフォローするが、さりげなくフォローになっていない。彼女にとっても、形状を含めて未知の要素が多いからである。
バックパック自体は見覚えがあるのだが――何処で見たのだろう? あまりにも軍事兵器を思わせる物は、ARゲーム内でも禁止されているのだが――。
しかし、アルストロメリアの方はアーマーの方に驚いているようで、特にガジェットは問題視していないようにも見える。
「あとは、実際にゲームへログインして――チートリアルかな」
カトレアの言う通り、後はゲームへのログインだけである。いよいよプレイ出来るのか――とアルストロメリアは興奮のあまりに腕が震えていた。遂に、ファンタジートランスをプレイ出来るのか、と。
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