三木千成の供述

I:分岐


 俺の口からこの事を語るとしたら、とてつもなく安っぽい物語みたいで笑えてくる。何一つ変わらないけど、時が解決する事もあるみたいで、品川と出会ったがゆえに現在があるんだと思う。どうせだったら幸せに、なんて思っていた自分がすでに過去の産物になっているという事を受け止められなかった。


 本当はありがとう、なんては言えない。きっと弟は喜んでいるとは思えなかった。


 本当にどっちでもよかった。心からどうでもよかったんだ。――どっちだって同じだと信じていたから。


 でも品川は違った。ちゃんと俺が俺だと認識できて、俺達の秘密を孕んだ嘘に気が付いた。投獄されたのは人生においての汚点だろうが、俺は初めてヒトリの人間として認識された。弟としてでもなく、世喜でもなく、本当の意味での三木千成に。


 傘でぶん殴ってから俺は世喜に品川を抱えて言ってやった。


「これは俺のモノだけど、きっとあんたが欲しがっていた必要としてくれる人なんだろう?」


 弟は泣いていた。震えた声で「返して」と呟いた。条件は千成にとっての必要な人。だから登校日にまた俺と弟は入れ替わった。前と同じ。――だけど、品川さえ知っていればどうでもいい。俺と品川が弟に吐いた嘘。それが明確に自己を隔てるモノだった。


 弟のかわりにお礼を言う。俺は弟と違って嘘吐きは嫌いじゃない。品川だったら、わかっていると思うけど。


 長い雨が止んだかのような心持ちは、ひとえに空が晴れたからじゃない。これからの未来というモノに期待する自分のせいだった。

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