木枯らしの風
次の日に俺が登校してすぐに千成から話しかけられたのは、俺の予想していなかった事だ。クラス内での三木 千成という人間は、わりと優等生枠で簡単に人に好かれるタイプだった。
それから千成に対しても他のクラスメイトと同じ〝なんとなく友達〟を演じてみた。だけど一週間もしないうちに千成の方から俺を拒絶するような事を言うようになった。
千成からの一言。それは俺にとって辛く酷い言葉だった。
「品川真也の目は、人の事を馬鹿にしてる。僕はあんたの事が嫌いだ」
自分でも忘れかけていた本質。まだかかわりの薄い千成から指摘され、つい目を細めた。
「馬鹿にはしていないんだけど」
「でも、他人を見下して、毛嫌いしているだろう? 僕の事だって、その他大勢と同じ目線で見ているクセに」
他人からこれほどの拒絶を受けた事はなかった。いつも平等に、なるだけ没個性を演じていた俺の本性を気づかれたのが許せなかった。
「迷惑は、かけてない」
それだけ言うと、千成は鼻で笑った。それこそ他人を見下して毛嫌いしているかのような笑み。俺と違いはあるのだろうか、頭の隅でそんなことを思ってしまった。
強烈な言葉を言われた後でも、目立った対応の変化を意識してしなかったのは、たんに腹が立っただけではない。見抜かれた時の驚きとか窮屈さとかがいっぺんに襲って、ショックでそれどころじゃなかったのも含み、自分では反論できない苦しさがあったからだ。
「その他大勢、か」
千成に言われた一言に納得した時、後ろめたさは感じなかったが妙な空虚さを感じた。――所詮自分はこの程度、なんて割り切れるはずも無く。嫌いと言われたのにかかわらず千成のそばにいた。道化師のように本性を隠す。きっと他人を誰よりも怖がっていることから起きているんだと、千成に恋愛感情に似たものを抱いてすぐに気が付いた。
いつのまにかクラスで俺は他人よりも二歩ほど後ろで傍観している形を取るようになった。ほんの少し前は和には加わらず、だけど自分で和の中心をつくる。そして和が固定する前に、中心から逃げる。そんな感じの高校生活を送っていた。けれどいつのまにか、クラスの和の中心部分に笑っていのは千成だった。千成の横で俺はあたりまえのようにそばにいて、けれど精神的には誰よりも千成から遠い位置にいる。千成はそれを知っているから、時々複雑な視線を俺に向ける。しばらくはそんな毎日を送った。
「慣れるわけない、大丈夫」
自分の冷たい心の奥底に触れる。面白みも無い生活は慣れて飽きてしまう。しかし、刺激があり過ぎる生活も慣れてしまえば意味がない。なんて自分にいい訳をしながら、千成の近くで冗談めいて笑ったり笑わせたりしていた。他人から見れば普通に友達のように見える関係。俺はそれで満足だったし、千成もなにも言わなかった。
そうして生け簀のような高校生活が終わる。近くに居るだけで満足だった、はずなのに。今じゃ日に日に千成の事を目で追っている。いつのまにか千成にだけ執着している自分に嫌気がさしそうになっていた。ほかに興味も持てない自分にまた苦しみを覚えた。
同性に恋心に似たものを抱いている自分。感情のやり場に困り果てていた。いったいどうすればいいんだろう。相談するアテもない。嘆いてみるが、誰も答えてくれるはずなど無い。ただひたすらに不安定な毎日だった。
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