品川真也の思い出話

行く秋の帰路から


 高校生にもなって自転車でも電車でもバイクでも無く徒歩で学校に通っているのは、近場だからという理由もあるが小学校からの癖みたいなものであった。そしてマイブームが自動販売機で温かいココアを買って飲むこと。

 初雪はまだかなぁって思う時期、ブレザーの両ポケットに手を突っ込んで、寒い寒いと言いながら帰宅道の自動販売機で砂糖の沢山はいった甘だるいココアを買って飲む。義務にも似ていて買わないで帰った日にはなんだか罪悪感が残ってしまう。習慣化した行動は自分に変化が無い証明じみていて、あまりいい気はしていないが悪くは無いと自負している。

 あの時も自動販売機の前に立ってココアを選択しようとした時だった。携帯電話が鳴り響き、見覚えのない番号が表示されていた。

 ココアを選択するボタンを押して間もなく、電話の通話ボタンを押した。ガコッと落下した缶は取らずに、電話を耳元に当てると男性の声。

かかってきたのは、クラスメイトの三木千成からだった。


「あ、あの。……ごめん、罰ゲームで」


 今はやりの「知らず電話」という罰ゲームだろう。それは罰ゲーム対象の知らない友達に電話をかけ、相手からのリクエストに応えるという内容だ。ウチの学校ではわりかし有名な悪戯で、電話の向こう側から冗談と笑い声交じりの音が聞こえる。

 千成は罰ゲームになってしまった詳細を説明する。俺はくだらないなぁと思っていた反面、遊び半分の罰ゲームの対象になれるだけ、まだ俺はクラスに存在が残っている事を知った。


「じゃあ、三回まわってワンて言って」

「電話越しじゃ回ったの見えないじゃん」


 電話越しは盛り上がる外野と共に、布擦れの音とワンッという千成の声が聞こえた。文句をいいつつ、千成は実行したようだ。


「ごめん、じゃあね」


 それから電話が向こうから切られたあと、なんとなく電話帳に千成の名前を登録した。

 少しぬるくなったココアを飲みながら帰路についた。

 クラスのカースト的に俺は、どちらかというと没個性でどこにでも居るような存在なんだ。それなのに皆に相手してもらえるのは、きっと俺もそれなりに努力しているんだと思う。まぁ、なにを努力しているのって訊かれたらなんとも言えないけど。

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