第2話 空虚
長い廊下にたくさんの音の足音が響く。レプリカント達は班で行動しているため、集団行動が多いようだ。
僕も前はそうしていたのだろうか? そう思ってもどこかで思考を止めてしまう。それは僕が規制しているのか、プログラムによって初めから組み込まれているのかはわからない。
「……新人か」
ふと誰かと肩がぶつかってしまった。
謝ろうと振り向くとそこには僕とは正反対の長い白銀の髪をしたレプリカントが僕を見つめていた。その深い青色の目は僕を睨みつけているようだが、どこか悲しい雰囲気を感じさせている。
「貴方は……?」
僕の口から零れ出たのは、謝罪の言葉ではなかった。彼女の青い瞳をじっと見つめていたらどこか自分を見透かされているようだった。
「今度の機体は謝罪せずに睨みつけるのか?」
彼女の冷たい声が沈黙を破った。
「すみません。僕はE:第2班所属予定、J-401、アイです」
「E:第2班か……私はE:第2班班長
J-12-24……名前しかデータになかったが、まさか女性レプリカントだとは思わなかった。E:第2班も計画の前線を任されている重要なグループだったはず……
「私は前任から任されたにすぎない。変な期待はしないことだな」
そう言いながらは、イルは元来た方向に向きなおしスタスタと歩いて行ってしまった。突然のことでぼうっと後ろ姿を見つめていたら少し振り向いて「他の班員に挨拶はしないのか?」と言った。彼女なりに来いと言っているのだろうか?
「第2班は僕を入れて四人だと聞きました。他の二人はどの様な方達なんでしょうか?」
「すぐにわかるさ」
あまり話すことが好きではないのだろうか、驚くほど会話が続かない。彼女が口にする言葉は大抵「はい」か「いいえ」で機械工の声よりも無機質に聞こえた。
結局あまり話せないまま部屋についてしまった。イルはやはり黙ったままタッチパネルに触れ、ドアのロックを解除した。
「ここがE:第2班自室だ」
そこは机の周りを椅子が四つ規則正しく囲んでおり、四人の部屋につながるドアと簡易メンテナンス装置が一つあるだけの質素な部屋だった。必要最低限。この言葉がぴったりだ。
「遅かったですね、イル。……そこにいるチビは誰ですか?」
窓際に立っていた紫の紫陽花の様な色の髪を二つにくくった少女が振り向いた。機械というより人形の様でイルとは違う冷たさを感じさせた。
「聞こえてるんですか? そこのチビは誰って聞いているんです。さっさと答えたらどうですか」
だが少女は、眉をひそめ容姿とは想像もできない言葉使いで静かに近づいてきた。そして両手を腰に当て僕を睨みつけている。彼女はなぜ睨みつけているのだろうか、理解が出来ないというのが本心だ。
「こいつはアイだ。新しく配属された……」
イルが説明をしているのをそっちのけにし、少女は睨みつけていたと思えばジロジロと僕のことを見回した。
「前作
「46……? 」
46とは誰のことだろうか? 検索してもそれらしき者は見当たらない。前作ということは
「46は前任の班長のことですよ。破損してもういませんが……。そういえば自己紹介がまだでした。僕は
Iモデルは情報解析、索敵の能力が高いと聞いている。この班にいるということは相当な能力の持ち主なのだろうか。
「それにしても、46そっくりですね? さしずめ前任の代わりってところですかね……?」
「前任の……?」
ルイの言葉に少し疑問を持った時、よほど強くタッチパネルを叩いたのとか勢いよくドアが開いた。息を切らしながらレプリカントは入ってきたなり僕に僕の手を握った。
「やっと会えたぞ!久しぶりだなぁ……」
「ちょ、誰ですか貴方は……久しぶりって僕は今日配属されたばかりで……」
戸惑う僕を御構い無しに男は手を上下にブンブン振っている。横にいるルイも止める気はないらしくのんきに欠伸をしている。
「やめないかヨウ。そいつは班長ではない」
「ん? 確かに……髪もイルみたいに白ないし……俺の見間違いか? すまんかったなぁ
悪かったと言いながら頭をガシガシと掴まれあまりいい気分とは言えないがこいつに悪気はないのだろう。ルイといいこいつといい、前の班長と間違えるほど僕は似ているのだろうか?
「すまなかった、ヨウにもルイにも悪気があるわけじゃない。46の……班長の存在は大きかったんだ」
イルは僕に向かって頭を下げた。
別に怒っているわけではなかったのだが……
「僕は別に歓迎なんかしてません。まぁ、46の代わりが務まればいいですね」
「やめないか……」
「本当のことを言ったまでですよ。班長」
ルイは嫌味っぽく言い捨て部屋を出て行ってしまった。46が彼女にとってどの様な存在だったのかわからない。
「ごめんなぁ、あいつ捻くれてるけどいい奴なんだぜ?」
「いえ、僕も何か気に触ることをしてしまったのかもしれません」
そう言ったもののなんだか左胸あたりが詰まる感覚がする。部品に不備があったのだろうか……
「私が連れて来たのにすまないな、今日は予定はない。休んだらどうだ?」
「お言葉に甘えさせていただきます。
明日にはすぐ作戦があるでしょうし……無理をして事態を悪化させるかもしれません」
「そうか……ではまた」
「すまんなぁ、今日はしっかり休めよ」
背中で二人の声を受け取り何もないまだ空っぽの自室に入った。46が使っていたのだろうかはわからないが真っ白の部屋はまるで真新しい部屋の様に感じられた。それとともになんとも言えない感情が奥から湧き上がった気がした。機械に感情が生まれることなど無いはずなのに。
「僕は……この部屋みたいに空っぽですね……」
ふと口から零れ出した独り言は誰にも聞こえるはずもなく白い部屋の壁に吸い込まれていった。
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