一章 人類に祝福を
第1話 再起動
真っ暗だった視界から少しずつ白い光が差し込んだ。
それは起動の合図。機械の新たな一生の始まり。
「J-401モデル、起動完了しました。」
頭上から優しい声が聞こえてくる。でも、その声はどことなく冷めていて無機質だ。
ゆっくりと鉛の身体を起こし周りを少し見回した。近くの床には鉄くずが散らばっていて、僕以外の機械も台の上に横たわっていた。
「大丈夫ですか? 音声認識プログラムに異常を発見しましたか?」
「……いえ、特には。」
音声認識プログラムに異常はなく、むしろ周りの音ははっきりと聞こえる。
機械工の女性レプリカントは棚の奥から鏡を取り出し僕の顔が見えるように机に置いた。
「どこか不備はありますか?
部品を確認しながら僕は鏡を覗き込んだ。 余りの部品を使ったからだろうか、瞳の色は左右非対称で右が黄色、左が緑になっている。髪は烏のように黒く蛍光灯の光を反射させている。ただ、瞳の色が左右で違うというだけで他に不備は無さそうだ。
「大丈夫そうですね。最終メンテナンス完了です。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
そう言うと、目の前の扉からいつもの場所へ移動する。 僕は目的地までの道のりは覚えていないが。
景色の変わらない長い廊下を歩き『司令官室』のプレートがかかった部屋の前で足を止めた。だが、ノックをするが応答はない。諦めて他の場所に探しに行こうかと振り向くと、
「やぁ、初めましてJ-401。僕に何か用かな?」
180cm程のレプリカントが微笑みながら僕に手を振っていた。
「アティナ司令官……貴方に用事がありました」
「それはすまない、第二司令室から呼び出しをくらってね……確か君は機体名称の設定と配属先の確認だったね?」
そう言うと、机の上から慌ただしく資料を探し始めた。よっぽど整理が苦手なのだろうか、周りにも資料が散らばっていて、彼自身が紙を踏みつけている。
「あったあった……何か機体名称に希望はあったかな?前のD-103モデルは自身で選んでいたけれど」
「特にありません。機体名称、パラメーターは前回の物を引き継ぎでお願いします」
別に自分の名前に思い入れはなく、一から戦闘能力を身につける時間も惜しかった。部品破損が酷くない限り能力は前回の機体の物を引き継げるので余り不自由には感じなかった。
「今回の君は少し頑固のようだね?」
司令官は口角を少し上げて僕の方を見た。
「どうして口角を上げるんですか?」
一番効率の良い方法を選んだはずだが、違ったのだろうか。確かこの行動は『笑う』と言う名前だった。僕は何か面白いことを言った覚えはない。
「それはもちろん面白いからだよ」
「……面白いからですか。わかりましたデータに残しておきます」
ウィンドウを開こうと手を挙げると司令官が手首を持ってもう一度微笑んだが、先ほどのように温かみはなかった。機械工のレプリカントのように生命を感じさせない無機質な微笑みだった。機械だから当然なのにどこか身体が軋んだ気がした。
「無駄なデータは取らなくていい。特に感情……とかね? さ、閉じた閉じた」
司令官はウィンドウを強制に閉じて、司令室のモニターを表示した。
多くの機体名称が表示されているがどれにも大きくバツが書かれている。
「今までに感情を持ち、命令に背いて処分されたレプリカント達だよ。僕みたいに初期化されてなかったら大丈夫なんだけどね、みんな3.4年位だったから」
いくらスクロールしてもバツは途切れず何枚もフォルダがありそうだった。
司令官が感情移入をさせないのも無理はなさそうだ。 リサイクルさせるからといって資源も多くはないし他地域に取りに行くのにも戦力が必要になる。詮索するのも不可能だと思い、データを消去しておいた。
「さすが、物分りがいいのは変わらないよ」
「もういいでしょうか? 次の作戦に支障が出るといけないので。班員もまだ把握してないので」
「あぁ、十分だよ。他の班員とも仲良くね」
仲良く?今さっきまで感情移入を禁じていたはずだが。
「矛盾なのでは?」
「仲良くするだけで友情ではないよ。
確かに矛盾とも言えるけどね」
司令官は首を捻らせて困ったような顔をした。僕のデータベースにある人間にさほど変わりはなかった。 本当に感情は無いのだろうか……
「簡単に言うと、作戦のための自爆機能があるだろう? それまでは班員と協力して作戦を遂行しているけど、いざ自爆しようとすると他の班員が止めてしまうんだ」
「作戦に支障を与えないためですか。必要なデータとして保存しておきます」
僕がデータを保存しても今度は手首を掴んだり、注意したりはしなかった。
感情というデータはウイルスでも持っているのだろうか。興味深いとは思うが、作戦に支障を与えてしまっては元も子もない。人類が遺した計画がレプリカント達の存在理由なのだから。
「J-401モデル、
「……人類に希望を」
「「
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