……これだけ?
「はんっ! そんな、マスコットキャラを選ぶなんて……耄碌したわね、愚弟! 私のお猿さんの勝利は疑いわないわっ!」
「酷ぇ。今や、日本を代表する電気ネズミさんなのに……。第一、そのマスコットに負け越してるんだがな、そのお猿さん。要は腕だろうが」
「ゆいは、このこー。みどりのきょうりゅーさん」
「あ、唯ちゃんはその子にするんだ。それじゃ、私は――うん、やっぱり、この子で!」
「「ふっ」」
「な、何よ、二人して。い、いいじゃない、可愛いでしょ! ピンク色で目がまん丸で……」
「やよいおねえちゃんはちゃれんじゃー」
画面上でキャラクター選択が終了した。いよいよ、血で血を洗う大乱闘が始まる。姉貴と一対一じゃない事は救いか。毎回、荒れるからなぁ……。
今日は、温泉旅行のお土産を渡す為に、弥生と姉貴の家を訪ねたのだが、夕食後、案の定、ゲーム対決と相成った。
まだ、時刻は夜7時。当初は、俺と姉貴の対決予定だったのだが、唯も混ざりたがったので、四人でのゲーム対決となったのだ。なお、チーム戦で、俺と弥生。姉貴と唯となっている。
対決場所は、狭い空間だとすぐに終わってしまうので、敢えて広い城を選択。これなら、余りこのゲームで遊んでいない弥生も多少は粘れるし、早々飛ばされないないだろう。……あくまでも、多少だろうが。
——ゲームスタート。
「つかさ♪ 姉と弟の絆を確かめ合いましょう?」
「気持ち悪っ! こっち、来んなっ!」
「やよいおねえちゃん、かくごー」
「え、あ、ち、ちょっと待って待って」
案の定、姉貴が俺を狙ってくる。が、そんな事は分かっている。電撃を放ちながら、距離を取る。
弥生は……あれは、もう駄目だな。使っているキャラが玄人向けで、基本性能は最弱キャラってのもあるけど、唯が想像以上に強い。
「弥生、少しは粘れ。大人の意地を見せろっ」
「そ、そんな事言ったって、こ、この子弱くない!?」
「お前が下手なだけだっ。キャラをディスるのは、心の中だけにしとけ」
「あーら、お喋りしてるなんて、余裕ねぇ、愚弟。ああ、電撃が鬱陶しいわぁ。とっとと、殺さないとね♪」
「不穏な単語!? くっ、ゆ、唯。弥生お姉ちゃんはいいのか?」
「うんー。つかさおにいちゃんのほうが、てごわいからー」
唯が戦術判断をしてくる、だと?
くっ……この親にして、この子あり、か。……天使だけど。
俺が使っているキャラは、可もなく不可もなく。少なくとも、弥生のキャラよりは強い、性能的には。
「弥生、唯を何とか抑えて……すまん、俺が馬鹿だったわ」
「な、何、あ、ああ、あああっ! ね、姉さん、酷いっ」
「いやぁ、相変わらず飛びやすいわねぇ。弥生、そんな風にふわふわ浮いてるとわ私の右ストレートの餌食よ。気をつけなさい」
迂闊に飛んでいた弥生のキャラが、姉貴の狙いすましたスマッシュで飛ばされる。う~む……。
唯のキャラへ、アイテムで出たボムを――投げず、姉貴の猿へ投擲。炸裂。巻き込まれる、復活したばかりの弥生。吹き飛ばされ、更に猿から追撃で星に。3機制なので、これで弥生はリーチか。
「愚弟っ! 何をするのよっ」
「愚兄っ! あ、あんた、私を狙ってっ!?」
「ち、違うっ。お前がそんな所に降りてきたのが悪いんだよっ」
「あらあら、こんな所で仲間割れかしらぁ? 二人で温泉に行って、気が抜けてるんじゃない? ん? んん? ああ、当然だけど罰ゲームありだから」
「「なっ!?」」
姉貴から爆弾が投下された。い、いかん、これは不利だ。
実質、弥生は戦力外。そして、姉貴と俺がほぼ互角。唯もかなり強い。
そこから、導き出される答えは……い、いや、諦めるなっ俺。
こんな理不尽な戦場、幼き頃から、幾度も経験してきた筈だっ。あの、コーラくみ時代の屈辱を思い出せ。殺意の波動に目覚めるは今!
「そう言えば」
「隙あり!」
「ちっ、この黄色ネズミがぁ」
「世界に知られるキャラに向かってっ!」
「はんっ。年季が違うのよ、年季がぁ」
「つかさおにいちゃん」
「んー?」
「ひだりてのくすりゆびにゆびわー」
「!」
「隙ありっ!」
「しまっ」
「おそーい」
姉貴と唯の連続スマッシュが直撃。一機を喪った。
落ち着け。姉貴はかなり削れている。まだ、まだ逆転の目は――。
「やよいおねえちゃん」
「な、何?」
「つかさおにいちゃんのこと、すき?」
「!!?」
「ば、馬鹿っ」
「はい、ばーん」
「ああ!」
俺のキャラが復帰した直後、弥生のキャラが唯のキャラに飛ばされる。
辛うじて、復帰。危なっ。
くっ……唯が精神攻撃だと?
「姉貴」
「勝てばいいのだー」
「て、天使を使うとはっ、この猿! 必ず、落とすっ!!」
「猿? 姉に向かって……唯♪」
「つかさおにいちゃん」
「な、何だ?」
「やよいおねえちゃんのこと、すき?」
「うぐっ……」
「あらあら~? 言えないのかしらぁ? そんな指輪を付けてるのにぃ? へーふーん。愚弟の想いってそんな程度だったのねぇ」
「そ、そんな事」
「…………」
姉貴のニヤニヤした顔が心底ムカつく。
同時に、あー弥生さんや。どうして、そんな不安そうな顔をしてるんですかね?
……ったく。
「——好」
「はい!」
「ばーん」
「なぁっ!!?」
意を決し口を開こうとした、俺のキャラがあえなく散る。
――その後は、あっさりと蹂躙。これ程までに惨敗しようとは。
「さ、あんた達の負けね。罰ゲームはっと……弥生、こっちへ来なさい」
「へっ? な、何?」
「いいからいいから」
弥生が部屋の隅に連れ去られて、何やら耳打ちされている。都度、我が愚妹は真っ赤になっていく。
うわぁ……嫌な予感。
「はい、お待たせ♪ じゃ、弥生、後はよろしくね。唯、お風呂の時間よ」
「はーい」
「…………」
残される俺と弥生。
ソファーに座っていると、隣に座ってきた。そして、身体を傾けて来る。うん?
何時もより、密着度が増しているような……。
「ど、どした?」
「……罰ゲーム」
「うん?」
「……姉さんが、これから24時間は――――として過ごせって」
「? 今、何て言った」
「う~……だ、だからぁ」
少し瞳を潤ませつつ恥ずかしそうな弥生が、耳元で囁いた。
「新婚夫婦としていちゃいちゃしながら過ごせって。どうせ、じきそうなるんだから、今の内に慣れといた方がいいわ♪ って言うから……」
あの愚姉! はぁ……いったい何を考えてるんだか。
取りあえず、頭を抱きかかえる。不満そうな声。
「……これだけ?」
——その後、額にキスをした瞬間を、戻って来た姉貴と唯に目撃されるという失態を演じ、三人から問い詰められた。弥生、お前もか。何故に。
「……もっと」
うちの妹は世界で一番可愛い。けれど、ちょっとこういう時は困る。
後日、唯が激写していた額へのキスシーンが携帯に送られてきた。兄妹揃って、両手で顔を覆ったのは言うまでもない。
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