ありがと。大好き。出会ったあの日から、ずっと、ずっと、ずっと好き。愛してる
「あ、私、窓側ね」
「お前、行きもそうだったろうが? 帰りは譲るっていう考えは」
「ない」
「……そうか」
帰りの特急に乗り込み窓側に座る。行きとは逆側。違う景色が観えるだろうし、楽しみ。
荷物をラックの上に載せた、愚兄がこれ見よがしに溜め息を吐きながら、隣に座ってくる。その片手にはビニール袋。何よ?
「……いや、何も。さてっと」
「あーあー。私の分のビールは!?」
「ハハハ、ある筈がなかろう――ぷはぁぁ。どうして、新幹線やら、特急とかで飲む酒は美味いんだろうな。不思議だ。が、美味いから全ては許される」
こ、この男……思いっきり睨みつける。
けど乗っている人は少ないけど数人はいる。大きな声は出せない。そこまで見越しての行動ね……!
膝上に置かれたビニール袋を取り上げ、中からお菓子とお茶を取る。
ちゃんと、私分も買ってきているところが、また……もうっ!
――列車が動き出した。一泊二日だったけど楽しかったな。
でも、最後の最後でこういう仕打ちをするなんて、この愚兄は。どうやら、小学校時代に習った言葉を忘れたみたいね? 帰るまでが、なのよ?
いいもーん。これ食べ終えたらすぐ寝ちゃうから。着くまで2時間弱。独り寂しくお酒でも飲んでればいいわっ。
余ったお菓子を押し付け、ぷいっと顔を窓に向け目を閉じる。
かこん、というビールを置かれ、そして、雑誌を捲る音。
……何よ? 世界で一番可愛い妹を無視して、雑誌なんか読むわけ? 折角の二人旅なのに?
へぇー。ふーん。そうなんだぁ。寝顔にすら興味がないと?
そ、そりゃ、毎晩見てるかもしれないけど、明るい所で見るのはちょっと違うでしょ!?
目を開けたい。司がどういう表情なのかを確認したい。どうして、私は背を向けて目を閉じたのか。これじゃ意味がないじゃない。すぐ位置を変えたらどうせからかわれるし……。
見て。見なさい。見てほしい。見るべきなの。
背中から言葉を吐き出させ、隣でゆっくりと雑誌をめくっている愚兄に向けて浴びせる。
「あ」
「!」
そう、そうよ。いい、いいわよ、司。
流石、私の事を分かって――「すいません。バニラアイスください」はぁ!?
思わず、位置を変え、目を少しだけ開ける。「400円になります」「ありがとう」……この、男ぉ。
「ん? 何だ、寝相わりぃなぁ。よっと」
司が、私の身体に触れ、位置を直す。
……べ、別に動揺なんかしてないからね? ふ、触れられるのなんて、な、慣れてるし?
でも、これで司を観察――こほん。監視出来る。
うっすら、と目を開けると、雑誌を見つつバニラアイスを食べている。どうやら、ビールは一缶だけだったらしい。
美味しそう。私も食べたい。けど、今、起きたら不自然。
内心で葛藤していると、雑誌を閉じた。一瞬左手薬指が、キラリ、と光る。
うわ……うわぁ……うわぁぁ……えっと、その、あの、何と言うか……これ、ち、ちょっとだけ恥ずかしいんですけど……。
勿論、嬉しい。とっても嬉しい。正直、宿を出てから、恥ずかしくてまともに司の顔を見れない位に嬉しい。ほんとはずっと見てたいけど。
私だって、もう二十歳なわけだし、大人の仲間入りは果たしてもいるから平静を装いはするけれど……何しろここまで来るのが長かった。
苦節、十数年。私が、西木の家に引き取られて以来だし……な、何か、私ばっかり、好きになったみたいだけど、違うから!
つ、司だって、ずっと前から私の事を――冷たっ。
「な、何するのよ?」
「猫寝入りしながら百面相するっていう、楽しい芸をしてたからつい。アイス、食べるだろ?」
「なっ!? き、気付いて……」
「あれで、バレない、なんて思う方がどうかしてる。で」
「……食べる」
「あーん、はせんぞ」
「死ねばいいのにっ」
アイスのカップを奪い取って食べる。美味しい。こういう列車内で売ってるアイスって、何故か美味しく感じられるのは――特別だからなのかなぁ。
顔が赤くなってる自覚はある。
「——なお、間接な模様」
「…………別に、今更だし。もっと凄い事も」
「はーい。駄目です。きちんと猫を被りましょうね?」
「う~……何か、ズルい」
「何がだよ?」
「……私は、結構、その、こうやって改めてだと、いっぱいいっぱいなのに、司は普通そうに見える」
「そうか?」
「そう」
「そうでもないんだが」
苦笑しながら司が私のお茶を取って、一口飲む。
……自然だ。とっっても自然だ。
ちょっと悔しい。この愚兄、何時も何時も私よりも先を進んでいる。愚兄のくせに生意気……!
少しは、一緒に進む、という選択肢を検討してくれてもいいと思いますっ。
むしゃくしゃするので、アイスは返さず全部食べる。へーんだ。
「……弥生、お前まだ少し酔ってるだろ?」
「酔ってませーん」
「……そうか。ああ、食べ終えたらビニール袋に入れろよ?」
む――また、そうやって、私を子供扱いして。そういう愚兄はこうだっ!
強引に、司の頭を抱え込んで、耳元で囁く。
「——あのね、指輪、はめてくれてすっごくすっごく嬉しい。ありがと。大好き。出会ったあの日から、ずっと、ずっと、ずっと好き。愛してる」
前後と隣の席に、人がいない事は確認済み。大丈夫、司にしか見えていない筈。
自分の心臓の音は凄いけれど……これなら司もきっと。
――その後、珍しく本気で恥ずかしがる彼を見れました。私は満足です。
「…………お前だって、真っ赤だったからな? 証拠は此処に!」
「!? こ、この、愚兄っ! そ、そういうのは禁止でしょ!!」
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