だって……だって、喧嘩したままは嫌だったんだもん!

「で――何があったわけ?」

「何も、ないがっ」

「嘘ね」

「嘘をつく理由もないだろ」

「なら……どうして、弥生は向こうのソファーで寝てるのよ? しかも、わざわざ、あんたの視界に入るように」

「……知らん」

「へぇー。あ、そこから来るわねっ!」

「!? ……エ、エスパーかよ、あんたは……」

「ふふふ。S+は伊達じゃないのよ♪」


 目の前の画面で、自キャラ(1の頃からツインテールの女の子キャラだ)が昇天。スタート地点に戻される。

 ……此方の姿を確認しないで、当ててくるとは。いや、ある意味で古典的な技術ではあるんだが。

 まぁ、まだ始まったばかり。挽回の目はあるだろう。

 視界に、ちらりと時計が見える。

 現在の時刻、夜の10時。場所はうちの実家のリビング。

 まぁ、こうやって時折、顔を出さないと、両親が悲しむのだ。

 姉貴と唯も遊びに来てるのは意外だったけれど。何時もは事前に連絡がくるんだが、珍しいこともあるもんだ。

 そう言えば、正月も確かこんな時間にやっていたような……まぁ、唯を寝かしつけないと姉貴は自由になれないから、この時間になるのは仕方ないと言えば仕方ない。

 この前と変わっているのは……膝の上に、あいつの頭がないこと。

 ――またしても、自キャラ目掛けて、狙撃。

 危うく回避。此方の武器はローラー。不利過ぎる。

 隣でニヤニヤ笑う姉貴。こ、こいつ……塗るんじゃなく、キルしにきてやがるな……!


「愚弟……私は、お正月、ギリギリまで追い込まれた事を忘れてはいないの…… 姉は常に弟よりも上にいなくてはならないのよっ! そして、弟は姉を負かしちゃ駄目なのよ!! そこらへん……思い出さないと駄目でしょう?」

「何処の惑星の常識だっ!! 要は、最後に勝ったもんがちだろうがっ!」

「フハハハ。あんたが、新担当にデレている間に、私は復讐の刃を研いでいたのよ! どう見ても、最近やってないわね? 腕はすぐに錆びつくのよ! 弥生からの情報通りだわっ!」

「き、汚いっ! 自分が勝てるゲームを選択してくるところが、汚すぎるっ!!」

「馬鹿ねぇ……勝てばそれ即ち、正義! 大正義なのよっ!!」

「よ、世迷言をっ! 唯が変な子になったら俺は泣くぞ」


 姪っ子はとにかく可愛い。取りあえず、6歳までは天使認定。

 が、そっから先は……この姉貴だからなぁ……不安しかない。

 姉貴に妨害されながら、せっせと塗る。

 個人的には銃系統よりもローラーが合っている気がする。姉貴みたく、見越し射撃とか出来んし。


「で、話は戻すけど、何? 喧嘩でもしたの?」

「……そりゃ、俺達だって、偶にはするだろ」

「へぇーめっずらしいっ。でも、あんたが悪いんでしょ?」

「どうして、そうなるっ! ええぃ! 遠距離から鬱陶しい!!」

「素直にやられれば楽になれるわよ? ほら、私にキル数を稼がせなさい。ほら、ほらっ!」

「当たるかっ! ……あー別に気にしないでくれ。何時も何時も、仲良しこよしってわけじゃない。姉貴も義兄さんと喧嘩くらいするだろ?」

「喧嘩にならないわね。あの人、全部受け流すし。私だけが、わーわー言ってても空しいじゃない? で、何時の間にか、仲直りね」

「……多分、9割5分は姉貴起因だから……痛ってぇ。ぶ、物理攻撃は反則だろうが!?」

「ふんっ! この愚弟は年々可愛くなくなるんだから……で、どうするの?」

「どうする、とはっ」


 目の前にやって来た、敵陣のキャラを轢く。ご愁傷様。

 同時にボムも投げて牽制。こういうの大事だよな、このゲーム。

 ……何か、視線を感じる。

 見ると、ソファーで寝ている我が愚昧が、ちらちらとこっちを見ている。隣の姉貴はニヤニヤ顔。

 なるほど。正月と同じように、また俺を引っかけるつもりだな。

 だが、分かっていれば大丈夫だ。自分の言動に注意を払えば、穴に落ちることは……


「そろそろ結婚しないわけ?」

「!!??」

「おやぁ? 動揺してるんじゃないのぉ?? 隙だらけよっ!!」

「なななな、何を言ってるんだよっ!? 俺と弥生は、一応、その、兄と妹」

「だけど、昔々から好きなんでしょう? 血も繋がってないし。何か問題が?」

「…………父さんと母さんに説明出来ないだろうが」

「とっくの昔に知ってるわよ?」

「「はぁ!?」」


 ……ん? 今、俺の声だけじゃなかったような。

 弥生を見ると、猫が描かれたクッションを抱えている。オイ、さっきまで抱えてなかっただろうが。あと、耳が真っ赤だぞ?

 

「あんたね、親を甘く見過ぎ。『何時、報告してくれるのかしらねぇ?』ってこの前言ってたわよ」

「……嘘だろ」

「あら? 姉の言葉が信じられないと??」

「今まで、信じて良い結果が出た経験がねぇよっ!」

「失礼ねぇ。まぁだけど……いいんじゃない? 弥生も二十歳を越えたんだし。どうせ、普段はえっろい事してるんでしょ?」

「うぉぉ……あ、姉貴、さ、流石にそこらへんの話は、ちょっと……精神がゴリゴリ削られるんだが……」

「バカねぇ。削ってるのよ」


 あ、悪魔か、この女……勝つ為なら、何を言っても許されるとでも思ってるのか、畜生が。

 が……戦況は有利。このままいけば、こちらの勝利は


「――まぁ、たかだが半日足らずの喧嘩で、私に泣きついてくる可愛い可愛い妹なんだから、とっとと幸せにしなさいよ」

「!?」

「ね、姉さんっ! それは秘密だって――あ」


 タイムアップ――結果は、僅差で敗北。

 ドヤ顔をした姉貴が立ち上がり、俺達を見てウィンク。


「おほほ。後は、御若い方々にお任せしますわぁ~。御免あそばせ~」

「ちょっ、待っ」


 そそくさと二階へ上がっていく姉貴。爆弾を投下してそれかよっ!

 頭を抱えながら、弥生を見る。

 クッションを抱えて猫寝入りの構え。

 はぁ……。


「弥生」

「だって……だって喧嘩したままは嫌だったんだもんっ!」


 この妹はどうして、こう妙なところで迂遠な方法を選択するんだろうか。

 いやまぁ今回は俺も悪いが。


 

「あー……プリン、折角買ってきてくれたのに一人で食べて悪かった。今度、一緒に食べような」

「……明日、食べる」

「分かった、分かった」

「返事は一回! あと、ね」

「うん」

「……膝枕してほしい」


 翌朝、一部始終を撮影されていて、両親にまで暴露された。おおぅ……。

 俺もそろそろ猫寝入り覚えるかな……。

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