だから……こういうの、ズルいと思う!
唯ちゃんを連れて近くの神社へ向かう――大晦日も凄かったけど、まだまだ人が多いなぁ。
私達が手を繋いで――真ん中に唯ちゃんだ――歩いていると、ちらちらと視線と小声が聞こえてくる。
「うわぁ……凄い美人……」
「芸能人? 何処かのモデルさん? 綺麗――」
「小さい子も可愛い――家族かな?」
「あれって家族? でも、その割には若いような……」
「男の人も普通に見えるけど――優しそう。女の子があんなに懐いてるし」
うふ、うふふ、うふふふ……いけないいけない。顔がにやけてしまう。家じゃないんだからきちんとしてないと。
私達、家族に見えるんだぁ。という事は――私と司は……えへ。
横の司は唯ちゃんを構いながら、笑顔。歩幅を合わせてゆっくりと歩いている。
――子供に好かれるのよね。親戚の子供をあやすのも上手だし。
まぁ、当然と言えば当然か。
基本的に優しいし、甘いし、目線を一緒にしてくれるし、我が儘も聞いてくれるし、案外と、その……カッコいいし、照れながらだけどきちんと褒めてくれるし、こっちが忘れてる約束も覚えてくれてるし、家事万能だし、物知りだし――言ってくれればすぐにでも……はっ!
わ、私……今、な、な、何を考え――
「弥生」
「ひ、ひゃいっ!」
「……ど、どうした?」
「……何でもないわ」
「そ、そうか……取り合えず、お参りを済ませるぞ。唯、その後でお御籤を引いて、お守りを選ぼうか」
「うん! ゆい、去年はね、中吉だったのっ!」
「そっかそっか。今年は大吉だといいな」
「楽しみ♪」
司は怪訝そうな顔をしていたが何も聞かず、唯ちゃんに優しく微笑みかける。
む……違うの。これは嫉妬じゃない。
別にその微笑みは私の! とか、ど・う・し・て、それを私にも毎回向けないのか! なんて思ってない。……思ってないったらないっ!
――ちょっとだけもやもやしたまま参拝を終え、売店へ。
「おーいっぱい種類があるな」
「おみくじ! おみくじ、引くのっ!」
「はいはい――よし、それじゃ三人で引こうな」
はしゃぐ唯ちゃんをあやしながらお御籤を引かせる。
私も引いて――中身を確認。どれどれ。
総合運は中吉か。悪くないわね。
個別は――えへ、えへへ、えへへへ♪ 嬉しくなって、ニヤニヤしてしまう。
それを見ていた司が小さく一言。
「……おい、猫剥げかけてるぞ?」
「なっ! べ、別に猫被ってる訳じゃないもの!」
「そっかそっか、そいつは悪かった悪かった」
「……馬鹿にしてるわね?」
「まさかー」
「……殴るわよ」
「きゃー」
「……帰ったら酷いんだかねっ!」
まったくこの愚兄は! すぐ、私をからかおうとするんだからっ!
――お御籤をもう一回確認。
えへへ。
「――小吉か、可もなく不可もなく」
「勝った。私は中吉よ!」
「勝ち負けじゃないからな?」
「ふーん」
「ぐっ……唯、お前は――」
不利を悟った愚兄は唯ちゃんへ声をかけ――あれ?
ちょっと涙目になっている。ど、どうしたの?
「…………ゆい、凶だったの。どうしよう…………」
「あ~……良し、それを貸してみな」
「つかさお兄ちゃん?」
「唯の籤と、この籤を一緒にしてっと――」
司は自分の籤と唯ちゃんの籤を一緒に結ぶ。
そして、屈んで視線を合わせる。
「唯のは凶だったけど、俺のは小吉。一緒に結んだから――さぁ、算数だ。どうなると思う?」
「えっとえっと……吉になる?」
「正解。こうして結んでおけば大丈夫だから、な? さ、次はお守りを選ぼう」
「うんっ! つかさお兄ちゃん、ありがとっ♪」
「どういたしまして」
こういう所……ちょっとズルいと思う。
小吉と凶を一緒に結んでも吉になる訳じゃないない。だけど、結果として唯ちゃんは笑顔になった。
しかも、さりげなくするんだから。
むぅ~唯ちゃんはともかく、これだから友人に紹介出来ないのよっ!
「弥生、どうした?」
「何でもないっ! 私も結ぼうっと」
「そう言えば――個別の内容はどうだった? こっちのはさっき言った通り、可もなく不可もなく」
「――へっ?」
「ん? そんなに変な事言ったつもりはないんだが……まずかったか?」
「その、あの……ち、ちょっとこっち来てっ!」
「危なっ!」
「きゃっ」
手を引っ張ると、司は予期していなかったらしくこちらに倒れこんできた。
咄嗟に受け止め――えっと、これって抱きしめてるように見えるよね?
毎朝やってるから、違和感は全然ないけど、人前はその……。
「あーやよいお姉ちゃん、ズルい―。ゆいも、ゆいも!」
「……と言われていますが。唯、ちょっと待っててくれ」
「……事故よ、これは事故。唯ちゃん、ちょっとだけ、待っててね」
「……さいですか」
「……そうです」
お互い、ちょっと赤くなりながら離れる。
――仕切り直して、小声。
「こほん――妹のお御籤の内容を知りたいなんて、変態愚兄ね」
「……なら、聞かん」
「仕方ないから見せてあげるわ、はい」
「いや、だから――」
籤を読んで司が沈黙。
そして、あっさりと返してくる。
あれ? 反応無しなの??
「むぅ~。何かないの?」
「ノーコメント」
「……嬉しくないんだ?」
「はぁ……何でそうなる」
「だって……」
「ったく――」
今度は司が肩を抱き寄せてきた。
――私の頭が司の胸にくっつく。
中々向こうからはこういう事してくれないし、ちょっと嬉し……違うっ! こんな事で有耶無耶なんかに――
「『今の人で良し』じゃなくて『今の人しか』――だろ? お前も俺も」
だから……こういうの、ズルいと思うっ!!
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