『証拠! 証拠は重要で必要なのっ!』

『えっ? 弥生、クリスマスの予定は何もないの?』

「だって、人が何処もいっぱいじゃない? 私、人混み得意じゃないから」

『意外だわ……てっきり、司さんとデートするのかと……』

「……美咲、誤解してるみたいだけど、私と司は兄妹だからね? 何で兄弟がデートしなきゃいけないのよ?」


 まったく、美咲にも困った――あ、ここいいな。イルミネーションが綺麗。

 こっちはクリスマスディナーかぁ。だけど、今からじゃ予約が取れないかな?


『あ、なら――私達と飲む? ぼっちが集まって24日から25日にかけてやるんだけど。この前みたいに飲ませないから!』

「……あの時はごめん。当分、遠慮しとこうかなって。兄にも怒られたし」

『そっか……でも、また飲もうね!』

「ええ、ありがとう――そろそろ切るわね。また、学校で」

『うん、またねー』


 携帯を置き、雑誌に目をやる。

 うふふ――何処に行こうかなぁ~。


「――何か行く前提で話が進んでいるように見えるが、行かんぞ」

「……な、何でよっ! 折角のクリスマスなのよっ! こんなに可愛い妹がいるのに連れて行かないなんて――世界の法則が乱れるでしょっ!!」

「いやだってお前――人混みが嫌だからって、わざわざ、料理とワインの予約までさせただろうが。部屋が良いーお外やだーとあんだけ駄々をこねていたのはどの口か。ああ、まだこの前の酒が残って……って! こらっ、物を投げるな」

「つ、司が何時までも、そのネタを引っ張るからでしょ! ……えっと、私、何時そんな事言ったっけ? 覚えてないんだけど……」

「ほぉ……」


 あ、まずい――これはちょっと怒ってる時の目だ。

 司は基本的に、何だかんだ甘いし、ちょろいし――とっても優しいけれど、怒らすと厄介なのだ。

 前回、怒らした時はこっちから謝るまで、2日も口をきいてくれなかった位。

 思い出すだけで……な、何という鬼畜!

 私は1日目の途中でもう限界だったというのに……可愛い妹と話したくないというの!? 普通はそっちが泣いて懇願してくるシーンな筈でしょ!

 因みにその時どう謝ったのかは――思い出さない。出さないっていったら出さない。だって……ちょっとまだ、刺激が……。


「何で赤くなってんだ? まさか――風邪か?」

「えっ? あ、こ、これはその……ひぅ」

「――熱はなさそうだな。取り合えず、今年は何処にも出かけません。これは決定事項です。ツリーももう予約をしてしまいました」

「……いきなり、触るの反則。私にだって心の準備があるんだからねっ――って! 勝手に決め」

「2週前のお前自身が決めたんだが?」

「あぅ……」


 な、何をしてるのっ! 2週前の私!! 

 いったい何があって、あ――その日って司とお酒を飲んだ日だ……。

 普段は二人共そんなに飲まないんだけど、姉さんからお土産ということで貰ったワインを開けて――そこから先の記憶が綺麗さっぱりない。

 何時も通り司を抱きしめて寝ていたらしく、熟睡はして二日酔いにはならかったから、今まで気にしなかったけど――司も何も言わなかったし。

 

 ……あれ? もしかして、これってかなりマズイ?


「えっと……その、司……」

「ん?」

「私……その日、何か言ってた……?」

「……それを言えと?」

「待って! …………や、やっぱり止めとこうかな。はは、あははー」

「俺の口からは言えんが――動画なら、ほら」

「ていっ!!」

「おまっ! ……危ないだろうがぁぁ、この愚妹!」

「ああああ、あんた、何でそんなの撮ってるのよ!?」

「いや、これもお前が撮れといったんだが……『証拠! 証拠は重要で必要なのっ!』とな」

「ぐぅ……」


 か、過去の私が、私を追い詰めてくる……。

 一瞬見えたそれには――酔っぱらって甘えまくっている自分の姿が映っていた。 しかも、当然のように膝の上で。

 

 ……事態は私が思っていた以上に深刻である可能性が高い。私の中では、さっきからアラームが鳴りっぱなし。

 

 あ、あ、あんな状態じゃ、それこそ何を言ったのか分かったもんじゃないわっ! 普段、心の奥底に鍵を何重にもかけて仕舞っている願望やら欲望やらその他諸々をここぞ! とばかりに吐き出している可能性すら……。

 あ……だから、翌日、あんなに調子良かったんだ!

 お酒に強くない私があんなになるまで飲んだのに、平気だったから何か変だなーと思ってたのよね。

 そっかそっか、普段言えない事を全部吐き出したからかー。なるほど、なるほど、疑問氷解――さぁどうしよう……。

 羞恥に耐えて、動画を視る? 

 一瞬だけでも、既に相当精神的に負荷がかかってるのに?

 司から聞く――のは、もっと何かその……。


 だ、だって! 万が一……とかしてたら、これからどうやって接すればいいか分からない!!


 自分の性格から考えて、それを聞いて暴走しない自信無し。と言うか――襲う。襲って有耶無耶にする。

 と、取り合えず分かってる事は――クリスマスをうちで過ごす+料理やワイン、ツリーも準備済み、よね?

 あとは――


「ああ、そう言えば」

「! な、何よっ!?」

「……いや、そこまで驚くタイミングだったか今。さっきからちょっと変だぞ? 本気で大丈夫か?」

「大丈夫……大丈夫だから。ふぅ……さぁ、何?」


 落ち着いて――そうすれば大丈夫なんだから。

 今までだって、そうやって数々の危機を乗り越え



「――お前の指輪サイズは7号で良かったんだよな?」



 ……そこから先の大混乱はお墓まで持っていくと決めました。 

 

 え? クリスマス当日ですか? 

 家でチキンを食べて、ワインを飲んで、ケーキを食べて――プ、プ、プレゼントを貰って……えへ、えへへ、えへへへ♪


 過去の私――今年は最高の仕事でした。来年もよろしくお願いします。

 ……ただし、次からは事前に要相談で。

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