だって……ここは私だけの席だし。

「む、むむ、むむむ! あ、駄目、止めて、止めなさいっ!」

「やだー」

「そんな事言わないで――あ、あ、それは反則よっ!」

「かてばかんぐんーってママが言ってた!」

「なっ……姉さん、何を教えて――」

「やよいお姉ちゃん、おっそーい」

「な、なぁ! ……ふ、ふふ……勝負はまだまだこれからよ」


 さて、今、目の前では我が妹と、姉貴の愛娘――唯。可愛い――が絶賛ゲーム中である。

 なるほど、この前、練習してたのはこの為か。

 ……まぁその成果が発揮されているかは察してほしい。

 とりあえず、圧倒的トップを快走する唯に対して、弥生は熾烈なブービー争いを繰り広げているように見える。そして――


「勝ったぁ!」

「こんな……こんな……筈じゃ……」

「ふふん♪ やよいお姉ちゃんの負けー」

「ぐぐぐ……ゆ、唯ちゃん。もう一回。もう一回やりましょう?」

「えー。やだー」

「ど、どうして!?」

「だって……」


 唯がこちらをちらりと見る。8歳児に気を遣われるとは……優しい子だ。

 頷く。

 いいよ、そこの残念なお姉ちゃんに現実を教えてあげなさい。


「やよいお姉ちゃん、ゲーム下手なんだもんっ! 弱くてつまんないっ!」

「!?」

「だ、そうだ――愚妹よ。完璧超人なお前もやはり人だったと言う訳だな。さ、そこをどけ」

「う、嘘……これは嘘よ……しかも、どさくさに紛れて愚妹って言うなっ! 愚兄の分際で生意気――」

「今度はつかさお兄ちゃんがやるの? 一緒にやろー」

「ふふふ……俺は中々強いぞ? 少なくとも中ボス位には」

「負けないもんっ」

「むーしーするなー!」


 ふふん。じだんだを踏むな、負け犬。

 お前はそこで観戦でもして――おい、何故コントローラーを握っている。そして、もう一個取り出してくるな。

 そして、何だその目は。


「(司――分かってるわね?)」

「(分からん)」

「(嘘つくな……いい? 事は重大なのよ? これから先、会う時に唯ちゃんから遊んでもらえなくなったらどうするの? だから――全力で私を支援してっ)」

「(俺は遊んでもらえるしなぁ……自力で頑張れ)」

「(可愛い妹を見捨てる気!? 私は8歳児に大人の威厳を示さないといけないのっ!)」

「(……言ってて恥ずかしくないか?)」

「(う、うっさいっ!)」

「二人でコソコソ話してるー。ずるい。唯もー」


 そう言うと唯がこちらの膝に座ってきた。

 相変わらず甘えん坊だなぁ。

 後ろからぎゅーとしてやると、くすぐったいのか笑い声。

 ああ……可愛い。

 心が浄化される――おい、何だその目は。


「……ロリコン。変態。お巡りさんを呼ばないと」

「はんっ! 何とでも言え。唯は誰かさんと違って可愛いもんな~」

「な、何ですってぇぇぇ……吠え面かかせてやるわっ……あ、唯ちゃんは私の膝に来ようか?」

「やだっ! だってやよいお姉ちゃんくすぐってくるんだもんっ」

「ええ……」

「くくく、残念だったなぁ。唯は俺の方が良いんだってさ」

「……司、後で覚えておきなさい……」


 目が据わってるぞ? 怖い怖い。

 さて――


「唯。勝負の世界は」

「ひじょー」

「良い子だ。だけど正々堂々、勝負をしような」

「うんっ!」

「……二人とも、私のこと忘れてない? ねぇ?」


 ははは、知らんなぁ。

 唯を膝の上に座らしたままゲームスタート。

 ――ふむ。

 流石は姉貴の愛娘。何処かの誰かさんより遥かに手強い。


「唯――お主、出来るな」

「ふふ~♪ つかさお兄ちゃんも早ーい。でも、負けないもんっ」

「……ふ、二人とも早過ぎないっ!?」

「弥生、それは違うな」

「うん、ちがーう」

「待って! それ以上は言わないでっ!」 

「お前が下手くそなだけだ」

「やよいお姉ちゃんがおそいだけー」

「……言わないでって言ったのに」


 凹んでいても良いが――容赦せんぞ?

 唯もやる気満々だしな。

 

 その後、数戦――勝ち負けを繰り返したものの、最終的に唯とのデッドヒートを制し勝利。あ、危なかった……。

 楽しかったし――何より良い勝負だった(誰かさんは除く)。

 はしゃぎ過ぎたのか、お子様はおねむモード。今にも寝そうだ。

 そっと抱き上げ、ソファーに寝かしてやり、その横に腰かけ髪を優しく撫でる……寝顔も天使だなぁ。

 時計を見ると夕方。

 そろそろ、買い物へ出かけた両親と姉貴が帰って来るかな? 

 かなり張り切っていたから、期待大。

 まぁ……その前に、だ……。


「……おい」

「……何よ?」

「いや……あのな……その……」

「言いたい事があるならはっきり言いなさいよ」

「それじゃ聞くが……どうして、当然のように俺の膝へ座っている?」

「嬉しいでしょ?」

「そりゃ勿――じゃなくてだな」

「……嫌?」


 ぐっ……まるで捨てられた猫みたいな目でこっちを見るな。

 そういう所ズルいんだよっ!

 仕方ないから追認。


「嫌じゃないが……見られると困るだろ?」

「バレなきゃいいもん」

「お前、勉強出来るけど――時々、残念な子になるよな」

「む……司が可愛くなーい。だいたいさ……何でもないっ」

「いやそこまで言っておいて……ああ、俺に聞いて欲しいと」

「み、みなまで言うなぁ! そんな奴は――こうだっ!」


 そう言うと、弥生が頭をこちらの胸にこすりつけてくる。時折上目遣い。

 えーっと……どっちかと言うと、これは甘えてるようにしか見えないんだが……。もしくは縄張りの主張――って、おい。


「……なぁ」

「……な、何よ?」 

「いや、すまん――変な事を考えた」

「言ってみて」

「いやいや。流石に――」

「い・い・か・らっ!」

「……さっきまで、唯が俺の膝にずっと座ってたから拗ねたのかなーって――すまんっ! 自意識過剰だった。悪いと思ってるからこの件はこれで終――」

「………………だって」


 弥生がこちらを見上げる。

 その顔は真っ赤+明確に拗ねている。

 ……え? 嘘だろ?


「だって……ここは私だけの席だし」

「いやいやいや――唯だぞ!?」

「唯ちゃんでもっ! ずっと座られるのは嫌なのっ!」

「ええ……」

「引いたでしょ? 引くわよね? 私だって、友人からそんな話を聞いたら引くもん。だけどね――駄目なの。今は充電中。どけと言われてもどかないからねっ!」


 う~ん……一緒に住むようになってから大分色々拗らせているような……。

 いや、昔は押さえつけてたけど、今は遠慮がなくなったのか?

 まぁ何にせよ――こちらに拒否権はないんだけどさ。



 それから、両親と姉貴が帰って来るまでの約10分間、弥生がこちらの膝上に座り続けたのは言うまでもない。

 ……足が痺れた。

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