YES or はい、どっちかで答えてっ!

 朝のバタバタを乗り越え、諸々を終えて(と言っても小説は全然進まなかったけど……)ようやくお昼を食べ始めたのは、2時手前だった。

 本日のお昼は即席ナポリタンとサラダ。うん、上々。

 えーっと――今日はこの後、買い物へ行って、夕方までに実家へ。

 お土産はケーキ。

 途中で買わないと。何がいいかなぁ。取り合えず姉貴が好きなチーズケーキは買うとして――その時、携帯が鳴った。


 む……この着信音は。

 

 どうしよう。ちょっと出るのに躊躇。

 この時間にかけてきたってことは――多分、「外出てこい」だろう。この後、まだ買い物へ行かないといけないのに、遠出するのはなぁ……帰って来るのが億劫。

 まぁ出ないと、後で物凄く拗ねるしなぁ。数コール考えた後、出る。


「はい、もしもし――」

『出るの遅ーい。すぐに出なさいよ』

「出たろうが」

『知らないの? 可愛い妹からの電話には鳴る前に出るのが常識』

「ではないからな。で、どうしたんだ?」

『んー声を聞きたかっただけー』

「そうか。ならもう切るから――」

『はぁ!?』


 淡々と答えると電話越しから大声。

 う、耳がキーンってしてる……。


「うっさいぞ」

『……司が生意気。私は愚兄をそんな風に育てたつもりはないのに』

「そうだなー。むしろ、俺がお前を育ててるからなー」

『……言い方がえろい。こ、この変態っ!』

「おい……まだ日は高いぞ? 流石に頭の中が桃色過ぎないか?」

『う、うっさいっ! つ、司の言い方は変なのが悪いのっ! 私は悪くないもん』

「はいはい。それでどうしたんだ? お前まだ、講義中だろう?」

『うわぁ……妹の講義時間を把握してるとか……』

「――切る」

『ま、待ってよ! 冗談だって冗談ー。もう……すぐ怒るんだから。休講になったからもう帰れるの。まだ買い物行ってないんでしょ? 途中で合流しよっ!』

「ええー」

『む、何が不満なのよー。普通は飛び上がって喜ぶ場面でしょー。何が不満なんだー。心優しい私だって怒るんだぞー。がおー』


 いやだってなぁ……。

 我が家と弥生の通っている大学はそんなに離れてない訳で。

 そうなると――突然、不安気な声。


『ねぇ……私と一緒だと恥ずかしい?』

「何でそうなるんだよ。俺はいいけど、知り合いに見られたらお前が後で困るんじゃないか?」

『へっ? 何で??』

「いや……だって、その……」

『あ~……ふ~ん。へぇ~』

「な、何だよ?」

『べっつにぃ~。まったく――司は仕方ないなぁ。愚兄を持つと賢くて優しい妹は苦労しちゃうわ』


 何故か納得している。しかも一転ご機嫌だし……分からん。

 取り合えず、こちらの気遣いは無駄だったということか。


『それで、何処へ行けばいい? 何時ものカフェ??』

「そうしよう。今、お昼食べてるから、もう少し後――3時位で」

『りょーかい。あ、司』

「?」

『――ありがと、気にしてくれて』

「っ」

『それじゃ、また後でっ! 遅刻は駄目だからねっ!』


 こちらの返答を待たずに電話が切れる。

 はぁ……時折、素直になるのは止めてほしい。心臓がもたないんだよ――可愛過ぎて。



※※※



 馴染みのカフェに行くと、弥生が窓際の席に座っていた。

 本を読みつつ、時折珈琲を飲んでいる。

 むぅ――我が妹ながら、こうして見るとやっぱりとんでもない美人なんだよなぁ……それでいてキツさもなく、親しみやすさもある。

 勉強は今のとこオール特有――二年連続で学費免除――だし。

 髪も肌も綺麗で、スタイルも良いし。

 

 外見だけを見ればそりゃ、モテるのも当然か。

 中身は我が儘娘なのだが……猫被りの凄まじさよ。

 

 そんな事をつらつら考えつつ中へ入る。

 すると――強い視線。はいはい。真向いの席へ座る。


「おーそーいー」

「そうでもないだろ。ほら、2時55分きっかしだ。あ、何時ものカフェラテで」

「違うでしょー。可愛い妹に一刻でも早く会う為に、努力をするとこでしょー。私もカフェラテお代わりください」

「無理無茶を言うな」

「それと」

「うん?」

「座る位置が違うと思います」


 ジト目でこちらを見てくる。そして、自分の横を手で叩く。

 いやお前なぁ……幾ら何でもここでそういう事はしません。


「――すぐ行くんだから良いだろ」

「だーめ。お代わりも頼んだしね」

「はいはい。あ、取り合えず何か足りない物あるか? バターは買うとして」

「ココア! ココアが飲みたい!」

「お前、好きだよな」

「うん! 司も好きでしょ?」

「いや……あんまり」

「え……」


 突然、弥生のテンションが急降下。

 おい……今の会話の何処に地雷があったんだよ?


「…………」

「ど、どうした?」

「…………昔、スキー場で一緒に飲んだ時は『大好き』って言ってたのに」

「――ああ。そりゃそうだろ」

「……何がよ?」

「スキー場で飲むココアは俺も好きだよ。暖かいし。甘いし。だけど、それ以外で飲むのは――毎日じゃなくてもいいな」

「ふ~ん。まぁ……良いけどさ……」


 まだ、納得してなさそうだ。

 何が不満――あ~……そういうことですか。

 これを口にするのは中々難易度が高い。が、拗ねたままは面倒だしなぁ。

 ――是非もなし。


「そう拗ねるな……それにお前と一緒に飲むなら……」

「何よ?」

「ん? いや――何でもない」

「あーあー今、逃げたー。そこまで言っておきながら、恥ずかしくなって逃げたー。へたれだー」

「う、うっさいな」


 思った以上に恥ずかしかったんだよっ! 察しろっ!

 ニヤニヤ笑う弥生の顔が腹立たしい。


「仕方ないなぁ。そんな愚兄に、可愛い妹である私から助け船を出してあげよう」

「……嫌な予感しかせんな」

「へたれの癖に、しかも可愛くなーい。質問です」

「続けるのか」

「西木司は西木弥生と一緒に飲むココアが大好きである。YES or NO」

「ぐっ……」


 そ、それを答えろと?

 こ、この場でか?

 ……弄んでいやがるな。

 こういう時、ほんと猫っぽい。

  

「あれあれ~? こんな簡単な質問も答えられないの? もう、本当に手がかかるなぁ……じゃもっと簡単にしてあげる」


 こちらを見る弥生の視線が上気している――ん?

 何でこいつまで恥ずかしがって――


「西木司は西木弥生のことが大好きである。YES or はい、どっちかで答えてっ!」



 ……どう答えたかについては黙秘権を行使させていただきたい。

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