クリスマスホーリーのせい
~ 十二月二十五日(月) 親子丼 ~
クリスマスホーリーの花言葉 神を信じます
昨日の寒空登山がこたえて、朝からくしゃみなどしていますけど。
それを花粉症かと心配するのは
母ちゃんにも言いましたけど。
モミの木とスギの木は違うものです。
今日の穂咲は頭の上に髪の毛でリースを作り、クリスマスホーリーなど飾り付けて、中央の鐘をりんごんと鳴らします。
バカな図柄ではあるけども。
軽い色の髪で作ったリースにちりばめられた、トゲトゲの葉っぱに赤い実でお馴染みのクリスマスホーリーが実に見事。
いくつか、実になる前の白い小花が混ざっているセンスも素敵。
今日の穂咲はとってもメリークリスマス。
さて、そんなクリスマスさん。
いつもと違って随分早くに呼び出してきましたけど。
勝手口を開くなり包丁を突き付けるとは何事ですか。
「………………きゃあ。強盗よ」
「感情がこもってないの。でも、強盗じゃないの」
なんだ。
てっきりお小遣いを使い切った時に君が必ずやる、いつもの手かと思った。
「早く入るの。寒いの」
「包丁を突き付けながら言わないでください」
「急ぐの」
「はいはい」
「そしたら、上着を脱いでその辺に置いとくの」
「はいはい」
「次に良く手を洗って」
「冷たい冷たい」
「急いでこの包丁を持つの」
「はいはい」
「そしたら、まずはジャガイモから」
「剥かないよ?」
……なんだよ、その舌打ち。
俺が見事に騙されるとでも思ったのかしら?
「なに? おじさんが作ってくれた思い出のクリームシチュー、探すの飽きた?」
「ううん、違うの。クリスマスに食べたかったの、パパのシチュー」
それと、俺に料理を押し付けるのと何の関係があるのでしょう。
「だからこれがラストチャンスなの。失敗したら取り返しがつかないの」
「…………ああ、責任逃れってことか。ダメです。自分で頑張りなさい」
「でも、もうアイデアが無いの……」
しょぼくれちゃいましたけど。
…………ん?
待てよ?
「おじさんが作ってくれたってことは、もともとおばあちゃんが作ってくれたものなんじゃない?」
「……そうして、家庭の味は連綿と引き継がれていくものなの」
「ドキュメンタリーのナレーション風に言いなさんな。つまり俺が言いたいのは……」
「和風仕立て?」
うんと頷くと、ふむと納得された。
そうなんじゃないのかな。
だって君、うな重の味になった時には俺より沢山食べてたし。
そして穂咲は、ぱあっと目を輝かせて。
早速とばかりにYシャツを剥ぎ取ると、手早く野菜を切り始めた。
その間、手持ちぶさたになった俺はおばあちゃんにレシピを聞きに行ってみたけど。
洋風料理など作ったことが無いと言われて。
しかもこの寒いのに肌着一枚とはどういうことかと三十分ほど正座させられた。
……ということは、おじさんのオリジナルなのかな。
そう思いながら、今度はおばさんに聞きに行ったら。
普通のシチューなら何度も作ってくれたけど、穂咲が探してるシチューの事は知らないと一蹴されて、三十分ほど店を手伝わされた。
「…………ただいまあ。酷い目に遭った」
「遅かったでは無いか! 待ちくたびれたぞ、ロード君!」
「てことは、完成したんですね、教授」
鼻息荒く頷いた穂咲がよそってくれたシチューは、いつもと変わらず真っ白な見た目。
香りもまごうこと無き普通のクリームシチュー。
「今日はなにを入れたの?」
「コンブだけ」
左手をコンブみたいにへろへろ揺らしながら言ってますけど。
なんだっけ、その呪文。
コンブを入れたら和風になって、バジルを入れたら洋風になるんだっけ。
「いざ! 実食!」
「はいはい。いただきます。…………おお、和食」
まあ、いつも通り黒魔術がかかってますけども。
市販のルーにコンブを入れただけで、どうしてこんなことになるの?
でも、呆れた顔を上げた俺の目を見つめた穂咲の顔は。
驚きのあまりに紅潮していた。
「ってことは、出来たの?」
「これ!」
「おお!」
「すごくおいしいの! 親子丼の味がするの!」
……一気に雲行きが怪しくなりましたけど。
「思い出の味、これなの?」
「全然違うの!」
結局、思い出の味探しはクリスマスに間に合いませんでした。
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