『夏雪花』(お題:雨)



 ――其れはこの身に降り注ぎ、膚を濡らして溶かすもの。





 散り落つ際の花弁の如く、雫に打たれた躰が崩れる。


 頬を伝うは、天の涙か己の其れか。

 分かるのは、この身に沁み入る潤いに、飢え渇いていた事だけだ。


 思わず笑んだ頬が、ただ不恰好に引き攣れる。




 ああ、こうして得られたというのに、それ故私は溶けてゆく。




 夜に絶えぬ愛恵は、凍て付く化生の身には温かすぎた。

 慈雨に溶け、崩れる私は夏の雪。曙光に消えて露となる。


 それでもどうか憶えておいて、否忘れて欲しいと君に乞うた。

 その愛が私のときを溶かすなら、浅ましき妖異の事など夏闇へ。

 何も知らぬ我が君よ。




 輪郭を崩す躰を引き摺り振り返る。

 煙る細雨の向こう、安らかに微睡む君が見えた。

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