第19話「ヤクソク」 ―花咲千夏編―
他校との恒例行事ではある合同行事。
これは他校の文化部との交流して、コミュニケーションと行動力の向上させるのが目的だろう。
そう思ってはいても、今回の交流相手の情報だけでこちらの学校は盛り上がりだ。
主に男子生徒が……。
「いいかお前ら!我々はこの瞬間、全員が一致団結する時だ。争ってばかりでは、我々に春という季節は来ない!良いか!協力してでも自分の青春物語に花を咲かせるんだぁ!!!」
二階堂のメガホンによる掛け声で、男子生徒が『おお!!』と声を上げる。
まるで王様に感化された兵士たちのようだな。
周囲の様子など、もはや目に入っていないのだろうな。
お嬢様学校の生徒たちが、もはや死んだ魚のような目をしているじゃないか。
まるで人がゴミのようだ、と言わんばかりの目だ。
「お兄さん、おはようございます!」
「あ、瑠璃か。おはよう。えっと悪いな、騒がしくて」
「確かにうるさいですけど、虫だと思えば気にしませんから」
「お、おう」
良い笑顔で、今スゴイ事を言ったよなこの子。
もし聞いてたら、全員が全員心を折られていただろう。
「そういえば遥ちゃんは、いないんですか?」
「あいつは運動部だからな。参加は見学者として、午後からだろうな」
「そうなんですか。じゃあお兄さんは、何するんですか?」
「そうだなぁ――」
俺は自分の予定を確認する為、各部活の予定表が書かれた書類を見る。
天文学部の予定は、写真部の予定に合わせて組まれているようだ。
「――午前中は放浪だな。適当に散歩とかしてようかな」
「そうやって散歩して、どこかで如何わしい事をするつもりですか?」
俺の後ろから、ジト目で腕を組む少女の姿があった。
名前を知らないから、命名するなら『タクシー少女』というべきか。
「ちょっと待ってください。何ですか!その変なニックネームは!」
「あれ?俺今、声に出してた?」
「思い切り声に出してましたよ!瑠璃ちゃんも聞いたよね?!」
「あ、うん。聞いたけど……(朝から元気だなぁ、千夏ちゃん)」
何やら勢いが凄いけど、俺はこいつに何かしただろうか?
そういえば、彼女たちはいつも一緒なんだっけな。
昨日の夜に妹から聞いた話で、千夏ちゃんと出ていたがこいつの事か。
思えば、何かと懐かしい感じがするんだよなぁ。
「お前さ、前にドコかで会った事ない?」
「……い、いきなり口説き文句ですか?やはり男の人は、信用しない方がいいですね!行こう瑠璃ちゃん!」
「あ、ちょっと千夏ちゃん!?」
無理矢理引っ張られる瑠璃は、彼女に何処かへ連れて行かれてしまった。
それと懐かしい空気も一緒に消えてしまう。
「(ドコかで会ったような気がするんだよなぁ。でもお嬢様な女の子と会う機会なんてなぁ)」
そう考えながら、俺は適当に敷地内を放浪する。
ドコか懐かしいと思わせるのは、彼女だけではない。
この敷地内とこの鼻をくすぐる甘い匂いも、全てが懐かしい感じがするのだ。
俺はそのまま歩いていたら、何かに誘われるようにその場所を見つけたのだった。
そこには少し古いけど、面影がある場所があった。
「……俺はここを知ってる?」
微かに覚えているこの空気も、この場所も少しずつ投影されていく。
昔来た事がある場所に似ていて、俺はこの場所に来たキッカケを呟いた。
「――舞踏会?」
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「千夏ちゃん、何処に向かってるの?」
「……あ、忘れてた」
急に振られた言葉によって、私は瞬時に我へと返る。
「瑠璃ちゃん、腕大丈夫?」
私は力を入れすぎていたかもしれないと、瑠璃ちゃんに問いかける。
けど彼女は腕を抑えながら、笑顔を浮かべて言った。
「大丈夫だよ。それより千夏ちゃんは、何であの人を警戒するの?」
「それは決まってる。男の人は、皆信用がなくて、皮を被ってて……」
「あの人も?あの人は、私の友達のお兄さんだよ?信用出来る人だよ?」
かつてない程に彼女は続けた。
今までに無かった程、彼女が真剣だという事に気づいて言葉が出なかった。
「…………」
「私は千夏ちゃんが、どうして男の人が苦手なのかは知らない。けど理由も無く嫌うとも思ってない。だって千夏ちゃん、助けてくれた人に憧れてるもん」
「――なっ!?」
急に言われた言葉によって、私の身体から熱が走るのが分かった。
「……で、でもあの人は助けてくれた人とは関係ない!無関係だもん!」
「本当にそう思う?助けてくれた人が、あの人だとしても?」
「――――」
そう言われた瞬間、私は言葉を失った。
彼女は決して嘘を吐ける性格ではない。
だからこそ、真っ直ぐな目は私に迷いを生じさせる。
「……じゃ、じゃあ何であの人は何も言わないの?男の人は皆、ずるいし、不潔だし、何を考えてるのか分かんないし……」
「千夏ちゃん……私は、千夏ちゃんにあの人と仲良くして欲しいよ?」
真剣な表情は消え、彼女はいつも通りの優しい笑顔で言った。
頭を撫でられて、彼女は続けて言ったのだ。
「あの人の名前は、清水彼方さんだよ」
彼の名前を聞いた瞬間、微かな記憶から覚えている単語と当て嵌まる。
『ほら千夏?清水さんの家の長男だそうだ。仲良くするといい』
『ここは貴方たちには窮屈だろうから、遊んでおいで?』
両親から言われた言葉を思い出し、私の記憶からそこで会った少年の顔が浮かぶ。
私の脳内で、彼と少年の顔が重なってしまった。
そして私の中にあった、男性への疑心の理由も浮かんだ。
「…………瑠璃ちゃん、プログラム表でどこにある?」
「え?えっとぉ、確か体育館の受付だと思うけど……あ、ちょっと千夏ちゃん!?」
私は場所を聞いた瞬間に走り出していた。
この学校に来て、初めて全力疾走してしまっている。
もし先生に見つかったら、どう弁解したら良いのだろうか。
だけどそんな事は、今の私の頭の中には無かった。
やがて体育館へ到着し、私は肩で息をしながら書類を受け取る。
プログラムの最後にあるのは、この恒例行事を終わらせる為に必要な行事だった。
それを見て、私は懐かしい記憶を思い出す。
そして口元が緩ませながら、呟いてしまった。
かつて果たされなかった約束も思い出して、私はその行事を楽しみにするのだった。
『――最終プログラム:交流舞踏会』
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