第18話「カンサツ」 ―花咲千夏編―
天文学部として、合同行事の準備をしに来た俺は早くも失敗した。
月島や妹の遥としか仲良くない俺は、出来るだけ信用は出来る人間である。
そう思わせて行こうと意気込んでいたのだが、開始早々失敗してしまった。
ダンボールで前方が見づらかったとはいえ、女子生徒……。
しかもお嬢様高校の生徒にブツかってしまったのだ。
「あ、やべ。すまない、怪我はないか?」
手を伸ばして、俺は気づいた。
尻餅をついて倒れた少女は、この前の朝とその夕方に出会った少女だ。
「――あ、貴方はこの前のタクシーの人!何しに来たんですか?まさかとは思いますが、また懲りずに誘拐しに来たんですか?」
指を差されて、そんな事を言われる。
「誘拐って、俺がいつしたよ。怪我は無いなら、さっさと立ってくれ。ほら」
再び手を伸ばして、掴んで起きろと視線を送る。
だがそれは間違いで……。
「……結構です。合同行事、しっかりして下さいね。――ふん!」
彼女は起き上がって、そんな事を言って何処かへ行ってしまう。
それがどうも伝染してしまったようで、合同行事がやり辛くなってしまった。
「――えっと、これから合同行事でお世話になる学校の者ですが……」
ひそひそと蔑む声が聞こえてきて、『痴漢魔』だの『誘拐犯』などという噂になる。
それはもう、知らない間に徐々に広がっていった。
「……はぁ……最悪だ」
「どうした兄弟、妙に疲れた顔して」
「そりゃ疲れるだろう。手伝おうとしたら避けられるし、何もしないと視線がただ痛いんだぜ?挙句の果てには、天文学部の活動準備が出来る場所が無い事だ!」
「まぁそりゃ、あれだけ嫌われればなぁ……まぁどんまい!兄弟!」
二階堂は親指を立てて、グッドサインを出してくる。
グッ、じゃねぇよ!グッ、じゃ!
ここまで来ると、教員に頼み込むしか無いよなぁ。
生徒の申し出を、快く受け入れてくれる教員は居ない物かなぁ。
俺はそう思って、もう一回お嬢様高校へと足を運んだ。
「……じー」
「…………」
校門の所で、あいつは何をしているんだよ。
まぁ見た所、こっちを警戒しているのが分かるんだが……。
少し時間を置いて来てみたは良いが、今はもう放課後だ。
「――?(あれ?千夏ちゃん?)」
校門前にいる所為で、女子生徒が冷ややかな目でこちらを見てくる。
「…………はぁ……仕方ない。今日の準備は明日にするか」
「あ、あの~、入りますか?」
「え?」
帰ろうとした途端、校門の方から一人の生徒がこっちを見ていた。
「(ちょっと瑠璃ちゃん!?何をしてるの!早く戻ってきて~!)」
奥の方で、あたふたと何かしている奴がいるが放って置こう。
「あの合同行事の件で、来てるんですよね?」
「あぁ、天文学部の使える場所を知りたくてさ。写真部って何処にあるか知ってるか?あ~、知ってますか?」
「ふふふ、どうして敬語に戻したんですか?」
「きちんとした学校だから、そこもきちんとした方が良かったかなと思って……。変だったかな?」
「はい。朝に見かけていますので、かなり違和感があります」
そこまではっきりと否定する子は初めて見たな。
だけど何故か、不思議と嫌ではない。
いや、否定されて嬉しいという性癖は俺には無いけど。
何だろう。物事をイエスかノーという区別がはっきりしている子かな。
話してて、この子を嫌いになる子は居ないと思う。
あくまで俺の私見だがな。
「そっか。じゃあいつも通りにさせてもらうけど、写真部の顧問の先生は何処にいるかな?」
「多分この時間なら、職員室か部室だと思います。でも入る前に、ちゃんとお客様の手続きをしないと捕まっちゃいますよ」
そう言って、校門の少し先にある警備員の元へ案内される。
一瞬、警察かと思ってドキリとしてしまった。
案内という名目で、裏切られたかと思ってしまった。
一瞬でも疑った俺が間違いだな。心の中で謝っておこう。
「手続きが終わったら、どうぞ中へ。案内しますよ」
「あぁ、ありがとう。俺は清水彼方だ。君は?」
「
「え?妹の名前を知ってるのか?」
「あ、ごめんなさい。もしかしてそうなのかなって思って、名前で予想しちゃいました。嫌でしたらもうしないですよ、ごめんなさい」
「いや、謝らなくていいよ。少し驚いただけだ。遥とは友達してくれてるのか?」
「はい!もう仲良しです!部活も一緒なんですよ♪」
ああ、なるほど。
それで彼女は、妹の事を知っていたのか。
「――じ~~~」
背後から凄く痛い視線を感じるが、もうここは好きにさせておこう。
どうせ、尾行してくるんだろうなあれは……。
そう思って俺は、お嬢様学校の内部へと入る事にしたのだった――。
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私の目の前で、私の友達を口説き、あまつさえ仲良く話すなんて……。
(※酷く勘違いと妄想が続きます)
油断しました。
まさか生徒の少なくなった放課後を狙って来るとは、あの人は手馴れています。
もはや誘拐のスペシャリストですよ!
これはまた、私のように瑠璃ちゃんを連れ出して、タクシーを呼んで逃走。
実はまた運転手が知り合いで、送っていくと言った所でホテルイン。
そのまま瑠璃ちゃんにあんな事やこんな事をするに決まってます。
やはり男の人は、エッチでスケベでオオカミと両親から聞いた通りです。
このまま尾行して、動かぬ証拠を掴んだら即逮捕です!
「(あ、二階に?何の用で?――はっ!職員室!?)」
私はあの人を甘く見ていました。
まさか瑠璃ちゃんだけではなく、この学校の教師にまで手を出しに来るとは!
恐るべし男の人……これはもうオオカミじゃなくて、もう野生の何かですよ!
「(あ、出てきましたね。次はいったい、どこへ……)」
私、分かりましたよ。あの人の狙いが……。
ついに分かっちゃいました!
このまま瑠璃ちゃんに案内させて、人気の無い場所で襲うつもりですね!
男の人が野生なら、考える事は単純です。
大丈夫です。きっと私ならやっつけられます!
これでも一日に数時間は、モンスターを狩っているんですよ。
その知識があれば、男の人なんて余裕です。アイテムボックスはありませんが……。
「(なっ……あそこは写真部の部室?!)」
そ、そんなっ!ベースキャンプに来るなんて、流石は人間の亜種です。
やりますね。――でも、私は負けません!
必ずこの手で、男の人を倒して見せます!
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「――失礼しました。ありがとな、司さん。助かったよ」
「いえいえ。後、私は後輩なので、名前でも呼び捨てでも構いませんよ」
「そうか、じゃあ瑠璃にしとくわ。今度は遥も連れてくるよ」
「あ、は、はい!(な、名前で?!……男の人に名前で呼ばれちゃった)」
「じゃあ今日はありがとな。えっと……あれはどうするんだ?」
さっきから後ろの方で、壁を叩いたり、床を踏んだりと忙しい奴だったな。
最初から最後まで、終始何かしてた気がしたんだが……。
「気にしないで下さい。私がなんとかして置きますので」
「そうか?じゃあまたな。あいつにも宜しく言っておいてくれ。誤解されたまま会うのは、何か困るからさ」
「はい♪任せて下さい♪」
ぱあっと明るい笑顔で、瑠璃はそう言ってくれた。
俺は家を目指して、オレンジ色に染まる帰路を歩く。
そして俺は、明日から始まる合同行事を迎えるのだった――。
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