第16話「オモイデ」 ―花咲千夏編―

私の学校が、他の学校と合同委員会する日取りまであと一週間。

私はその間、部活動にしている写真部へと足を運んでいた。

そこで、部活の先輩である椎名しいな先輩に話としていた。

「え、うちの写真部と他校の天文学部との共同ですか?」

「そう。うちの写真部って、ここら辺じゃそこそこ有名らしいから。あっちの顧問の先生からオファーが来たのよ。それで今後の写真部の活動目的は、「星」をテーマにした写真を撮る事にしたわ」

「そ、そんな急ですよ!私はともかく、他の人たちの意見も」

「他の子たちは、快くOKを出してくれたよ?後は花咲さんだけだから、多数決で君の負けだから、反対数に入れても無駄よ」

……こういう時の先輩って、ちょっと卑怯な気がする。

「はぁ……分かりました。他の子たちは何て言ってたんですか?」

「『男の人と組めるのラッキー』だってさ」

「なるほど。それでいつもより、多数決をする必要がない訳ですか。私が男の人苦手なのを知って、ですよね?」

「花咲さんの事は知ってるけど、そろそろ男にも慣れないと後々苦労するよ?」

「ちょっと失礼します」

「あらら、怒っちゃったかな……」

私は部室を出て、トボトボと廊下を歩くのだった。

窓の外は少し曇っていて、私の気持ちを代弁しているようにも感じる。

両手の指を四角を作って、まるでフレームに入れるように空に手を伸ばす。

「……参ったなぁ。男の人、かぁ……」

私はそう呟きながら、脳裏に浮かんだ人影を思い出す。

あの時、助けてくれた人。どこに居るのかな?

まぁこの辺に住んでるのかもしれないし、その内また会えるだろう。

あの瞬間だけ……私は運命というものを信じたくなったのだから――。


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「先に言っておくが、お前らが着いて来る必要ないぞ?」

「なぁに言ってんだ兄弟!ショッピングと言ったら、まず俺だろ!」

「男でショッピングに行くとか、ちょっと引くなぁ」

俺の前で、二階堂と月島がそんな事を言っている。

「俺は頼まれてここに来てるんだが?」

「頼まれてって、水臭いぜー?遥ちゃんと行くなら、俺に報告してくれないとー」

「兄貴、この人殺してもいい?」

「いいぞー、兄ちゃんが許可してやる」

服の袖を引っ張って、妹の遥がそんな事を言ってくる。

中学生の頃の集まりと思うと、こうも懐かしくなるとは思わなかったな。

全員高校生になった事で、中学のような遊びをしなくなるという自然現象。

成長したから、子供っぽい遊びを避けるようになるけど。

まぁこうやって仲良く話せるんだから、俺たちには問題はないか……。

今回ショッピングというのは、名目なだけで別に大した用事ではない。

妹にせがまれて、買い物の付き合いをしたら勝手に着いて来ただけ。

月島は買い物、二階堂も諸事情と言って途中で合流したのだ。

「(お兄ちゃんと出掛けられると思ったのに……ついてないなぁ)」

「どうした、遥?不満そうな顔して、腹でも減ったのか?」

「べっつにぃ、なんでもありませんー」

不貞腐れたようにして、妹がそう言った。

頬を膨らませているから、何かしら不満を思っているのだろう。

後でアイスでも買えば、許してもらえるかな。

「いつまで着いて来るんだ?お前ら」

「遥ちゃん居る所に俺は行くぞ!たとえ火の中でも水の中でも、トイレの中でも!」

「遥、最後の部分をもしされたら、遠慮なく殺して良いぞ?」

「分かったよ兄貴。証拠は残さないよ」

ゲームセンターに入った瞬間、俺と妹でシューティングゲームの銃を持ってそう言った。

「相変わらず冷たい!」

小銭を入れて、妹と協力プレイを開始する。

ゲームセンターで遊ぶのも久々だったから、そのまま夕方まで遊んでしまった。

途中で二人は帰ってしまい、俺と妹だけの帰り道となった。

「――そういえばお兄ちゃんさ」

「ん?」

アイスキャンディーを口に含みながら、俺は隣を見ずに返事をした。

「お兄ちゃんの部ってさ、お兄ちゃんしかいないんだよね?」

「ん、まぁな。生憎、新入部員は誰も入らなかったな」

「だからアタシが入ろうか?って聞いたのに」

「何回も同じ事を言わすなよ。お前はお前のしたい事をすればいいんだよ。別に兄妹だからと言って、俺の後ろにいなくても俺より出来が良いんだからさ。好きな事をするといい」

「……べつにいいのに……」

「んあ?何か言ったか?」

「なんでもないよ!んじゃ、お兄ちゃんの部活は、合同の時疲れそうだね」

「確かになぁ。女子相手ってのは、俺らの学校は慣れてるから良いけど。お嬢様学校だからな、神経使いそうだ」

俺は溜息を吐きながら、そんな事を言う。

普通じゃない雰囲気があって、書類を届けた時もこの前も疲れてしまったからな。

いまいち、ああいう華やかなのは慣れない。

「でもお兄ちゃん、スーツ着た事あるじゃん。お父さんの会社の手伝いとかで」

「あぁ……いやまぁあの時は中学だったしな。遠慮とかって覚えてなかったし、気難しい所だな」

「その遠慮が無かったから、あの時女の子にちょっかい出したもんね♪」

悪戯っぽい笑みを浮かべて、遥はそんな事を言ってきた。

確かにあの時の子は可愛かったけど、俺より年下で住む世界が違うだろう。

だからなのかもしれないが、反動で遠慮しなかったのだろう。

自分も同じ舞台にいるんだと思いたい、自己満足の為に……。

一人の女の子と遊んだ事があったな。

「否定はしないけどな。……相当嫌われてるかもな」

「どんまいだね、お兄ちゃんの春はいつ来るのやら~」

「うるさいぞ。そんな奴はこうだ!」

俺は妹のアイスキャンディーの残り一口を頬張る。

すぐに威嚇する猫のように追い掛けられながら、俺は思い出を少し浮かべていた。

――あいつ、どこかに元気でいるんだろうか?と。


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