第14話「アコガレ」 ―花咲千夏編―
目が覚めたらそこは、私の通っている学校でした。
しかも保健室のベッドで寝ていて、気づけば午前10時を過ぎた頃。
私は授業も出ずにここで寝る理由もないし、ましてや風邪を引いてる訳でもない。
「(どうして?私は確か……)」
ベッドから起き上がり、カーテンを開けると保健室の先生がこちらを向いた。
『あら、起きたの?花咲さん、具合はどうかな?』
「あ、はい。大丈夫なんですけど……」
『そう。花咲さん、タクシーで殿方と一緒だったんですよね?あれは誰だか知ってるんですか?』
「え?殿方、ですか?」
…………。
……。
――あ、思い出した。
確かに私は、タクシーであの人に運ばれたのだ。
だから今、私はここに居る訳なのだが……あの人は間に合っただろうか?
――そういえば、私はあの人の名前も知らない。
「ん~……どうしよ」
『どうしたの?千夏ちゃん?』
「あ、
私は朝にあった出来事を友人の瑠璃ちゃんに話した。
『――え?男の人に会って、送ってもらったの?千夏ちゃんが?』
彼女は「大丈夫だったの?」と身を乗り出して聞いてくる。
何故、そんなに反応を示すのだろうか。
そう思ったが、この学校にとっては当たり前かと理解出来た。
私の通っている学校は、女子校になっていて男子禁制の学校なのだ。
お嬢様の花園や神聖な箱庭などと、世間からは呼ばれている。
私もその学校の生徒ではあるのだが、ここに通っている理由が彼女の心配の理由だ。
「大丈夫ではあったけど……」
『千夏ちゃん、男性恐怖症に近いぐらい男の人が嫌いなのに』
「確かに嫌いよ。でも私は借りを作るのがもっと嫌いなの!あの人、見つけ出して、とっちめてやる!」
『千夏ちゃん……あまり乱暴な事は……』
「でもあの人、違う制服着てたけど。いったい、何処の学校なんだろ?まずはそこからね」
『あ、あはは……』
そう言いながら、私と彼女は放課後まで授業に出るのだった――。
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「黒いツインテの白い制服?」
昼休みになった時に、教室で気になる事を二階堂と月島に聞いてみた。
「アンタまさか、違う学校の人にまで手を出したんじゃないでしょうね?」
「その言い方だと、俺が誰でも良いような人間に聞こえるんだが?」
「事実でしょ?」
「いや、紛れもない捏造だ。それで?お前らなら知ってると思ったんだけど」
そう思って、俺は教室から食堂へ向かう。
それに着いて来ながら、二人は腕を組んで考えている。
「いや、私には見覚えないなぁ」
「そうか。二階堂はどうだ?」
「……ん~、白い制服……白い制服。なぁ兄弟、それはきっちりとした制服だったりするか?」
俺は、記憶に残ってる彼女の容姿を思い出そうとする。
白い制服だったが、清楚っていう言葉が似合う制服姿だったな。
「う~ん、確かにきちんとしてたかもな。お嬢様?どこか珍しい服装だったから、良く覚えてるぞ。何て言うんだろうな、ちょっとラフだけどふわふわしてる感じかな」
「それは多分、
「星陵?どこだそれ」
俺が聞きなおした瞬間、何か火が点いたように二階堂が説明し始めた。
「――お前、あの星陵を知らないだと!?女の子しか通っていない、乙女の花園!才色兼備、眉目秀麗、清楚可憐な乙女達が通っている星陵学院を知らないだとぉ!?」
ビシッと指を差して、俺にそんな事を言ってくる。
熱いなぁこいつは、月島に至っては軽く顔が引きつってるぞ。
引き笑いである。
「それで?その子、可愛かったか?」
「あ?何でだ?」
「バカヤロー!星陵女子なら、可愛いに決まってるだろー!」
「決まってるなら俺に聞くなよ。てかそんなに知りたきゃ、自分で見に行ってこい」
「そ、そんな……」
二階堂は俺に紹介してと言いながら、泣きついてくる。
正直、今の俺には興味ないな。
久しぶりに天文学部の活動があるんだから、そんな事してる暇はないな。
『お、清水か。良い所にいたなぁ。ちょうど良い』
廊下を一人で進んでいたら、後ろから瑞鳥先生が前からやってきた。
「先生、何ですか?そんな不気味な笑顔をして」
『ほう?一体いつ、私の笑顔が不気味だと?』
その内、地球が何回回った時?とか言いそうな聞き方だ。
「……それで、何がちょうど良いんですか?」
『あぁ、それなんだがな。私の代わりにこれを届けて欲しいんだが』
そう言って、手に持っている書類の束を俺に差し出す。
その書類には、合同委員会の提案書とやらが書いてあった。
「合同?どことやるんですか?天文学部は」
『聞いて驚くが良い。――星陵女子だ』
「はぁ?!」
その俺の声は、廊下一杯に響き渡ったのだった――。
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「探すのはここまでね」
『ちょっと千夏ちゃん、速いってば!もう止めようよ~』
あの人と会った場所をひたすら探し、しらみ潰しに歩き回ってヘトヘトだ。
……という事が、瑠璃ちゃんから伝わってくる。
かなり息が上がってるし、これ以上は良いかな。
そう思いながら、私は彼女に帰ろうと促す事にした。
その時だった。
『おんや~、どうしたのかなぁ?お嬢ちゃん』
『お、星陵の制服だね。なぁ、俺たちと遊ぼうよ』
2人……いや3人か。完全に逃げ場を失ってしまった。
「瑠璃ちゃん、大丈夫?」
『う、うん』
私は彼女を自分の背後へ回し、彼らの前に出る。
「女の子相手に多人数とか、卑劣ですね!」
『女の子ねぇ?星陵女子とか有名だからなぁ、お気楽に上から目線が言える訳だ。育ちの良いお嬢さんは、いい気なもんだなぁ?なぁ?』
『――千夏ちゃん!』
男の人っていうのは、どいつもこいつも暴力なの?
馬鹿の一つ覚えみたいで、女の私じゃ力不足なんだ。
家でも、外でも同じ。
どれだけ頭が良くたって、どれだけ周囲に好かれようと頑張っても。
私はまだ、あの頃のままでしかない。
今までも、そしてこれからも……いつまでも――。
「――なぁにやってんのかな?こんな所で」
「……っ!?」
男の腕を掴んで、そんな気楽な声を掛けてくる。
「女の子相手に複数人とか、つまんねぇ事すんなよ。ベタだねぇ、随分と。お前らどこのゲームキャラのモブかな?」
『あぁ?何だテメェ!このっ!』
私は瑠璃ちゃんに引っ張られ、彼らの間を抜けていく。
手を引っ張られながら、私はその顔を見れずに後ろで喧嘩の声が聞こえて来る。
夕日に霞んだその姿には、私はあっという間に心を奪われたのだった。
まるでその人に、憧れるように――。
『ち、千夏ちゃん、行こうっ!』
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