花咲千夏ルート

第13話「ソウグウ」 ―花咲千夏編―

私があの人と出会ったのは、まだ私があの人の事を良く知らない時だ。

名前しか知らないけど、この町で会った事がキッカケだろう。

でも、今ならはっきり言えるだろうと思う。

私はあの人に出会った事が、とても嬉しい事だと――。


「……夢?」

どんな夢だっただろうか。

はっきりとは覚えていないけど、何かとても暖かい夢だったと思う。

目覚まし時計を寝返りがてら眺め、今が何時かと確認をする。

時計の針は、午前7時40分を示している。

「はぁ、7時40分、むにゅむにゅ……――はにゃ!?7時40分!?」

完全に寝坊だと思い、私は朝ご飯も食べずに外へ駆け出す。

――やばい、やばい!完全にやらかしたよ!

近くのバス停まで、走って数十分は掛かる。

だけど走らなければ、次のバスは10分後だ。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」

そうだ。この道を真っ直ぐ行けばバス停だけど、ここを曲がれば近道で間に合うはず。

そう思って曲がり角を曲がった瞬間、私は何かと衝突し後ろへと跳ね返された。


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「いってっ……おい、大丈夫か?」

「いった~!あぁ~、せっかく制服卸したのに……」

何やらブツブツと言っているが、見た所怪我は無いようだ。

そう思って、眺めているとやがて目があった。

「えっと、怪我ないか?」

「あ、いえ、大丈夫です。そちらこそ、怪我はありませんか?」

何だろう。急に大人しくなったな。

「俺も大丈夫だ。良かったよ、怪我が無くて。結構派手にぶつかったしな。それで急いでるんじゃなかったのか?」

「……あ!バス!?」

彼女は急に慌てたように腕時計を見て、やがて睨むようにこちらを見てきた。

「貴方が邪魔した所為で、バスに遅刻してしまいました。責任を取って下さい」

「え~、何で俺?」

いきなりそんな事を言われてしまった。

……っていうかそれは、理不尽な言いがかりだな。

俺はポケットから携帯を取り出して、画面の時間を確認した。

――午前8時か。

確かにこのままだと、俺ものんびりしてたら遅刻確定だけど。

流石に不注意だったのもあるし、責任……責任ねぇ……。

俺の学校は基本緩いけど、遅刻が確定するのは8時40分。

まだ距離があるけど、まぁ大丈夫ではあるか。

「なぁ君、どこの学校なんだ?」

「この状況下で、ナンパですか?男の人は流石ですね」

「そうじゃない。君の学校に掛け合うか?と言ってるんだ」

「貴方は学校の関係者なのですか?」

「それは違うけど、正統な理由があれば、遅刻しても平気だろ?それも人助けだ。学校に電話して、『俺とぶつかって、相手に怪我をさせてしまって。少々遅れます』とかな」

「……そう言って、上手く逃れようとしていませんか?」

ジト目で見られてるのが、どことなく信用がない感じだな。

「じゃあ責任は取れないな。信じられないのは分かるが、理由も無しに遅刻と理由がある遅刻。どっちが罪が軽いと思う?」

「どの道、遅刻したという現実は変わらないと思うんですが……」

確かにそうだが、はぁ――これは何を言っても逃げられないか。

「……はぁ、仕方ない。ちょっと待ってろ」

「あ、ちょっとドコに掛けるんですか?」

携帯で登録してある番号を選んで、俺は『しっ』とジェスチャーして発信する。

耳元で『もしもし』と聞こえた瞬間、俺は彼女は離れて電話を続けたのだった――。


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知らない男の人は、少し携帯で電話した後に近づいてきた。

「……じー」

「何だよ?俺の顔に何か付いてるか?」

男の人は信用してはいけない。知らない人には着いて行ったらダメ。

私はそう両親から教わっています。

『知らない人』であり『男』であるこの人は、二重の意味で要注意なのでは?

そう思っていると、遠くからクラクションが聞こえて来る。

来たのは、タクシーのようだった。

「あ、どうも。いつも有難う御座います」

窓が開いて、彼は運転席の人と親しげに話している。

「(ま、まさか!これはぞくに言う『誘拐』という奴では!?こんな朝方の人気ひとけのない場所!そして両親の言葉!わ、私の、私の人生は終わってしまうのでは!)」

「時間大丈夫ですか?……はい、はい……あぁ、有難う御座います。じゃあ目的地なんですけど、ちょっと待ってくださいね」

「(このまま車に乗ってしまったら、私は今までの人生よりも遥か乏しい生活になり、途方に暮れるシンデレラのような暮らしを……)」

「お~い、何をしてるんだ?」

急に声を掛けられ、ハッと我に返る。

だが頭の整理が出来ていない。逃げるべきか、叫ぶべきか……。

「あぁ、応答あった。君の学校はどこだ?仕方ないから、責任とやらを取ろうじゃないか。さぁ乗れ」

乗ってしまっては、乗ってしまっては……。

私はもう頭がショートして、目の前が真っ暗になってしまった。

その後、私が目覚めたのは……保健室でした――。

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