月島秋穂ルート

第7話「ユウジン」 ―月島秋穂編―

ある日の記憶を夢で見た。

その夢の中での俺は、必死にノートを睨んでいる。

誰もいない教室でただひたすらと。

そして、何かを思いついたようにノートに書き始める。

『――ねぇ、何書いてるの?』

急に入ってきた女の子にそう聞かれ、慌ててノートの中身を隠す。

取られそうになった所で、俺はその夢の世界から目を覚ました。

「――なんだ、夢か」

「お兄ちゃ~ん!朝だってばぁ!」

「はいはい、今行くよ」

俺は伸びをして、寝ている間に固まった身体を鳴らす。

パキポキと良い音がして、個人的には気持ちがいい。

「………ふぁぁ~あ」

「お兄ちゃん、眠いなら顔洗って来れば?」

「お~う」

階段を降りていると、リビングから顔を覗かせている妹がそう言ってくる。

俺はそれに欠伸をしながら答えて、洗面台へと向かった。

顔を洗ったが眠気は取れる訳もなく、それは家を出るまで続いた。

「もうお兄ちゃん、だらしないよ?」

「お前にだらしないとか言われる筋合いは無い気がするんだが?」

「も~、そんなんだから彼女の一人や二人出来ないんだよ」

「何でそれをお前に言われなきゃいかんのだよ、我が妹もフリーじゃねぇか」

「なにを~!?アタシだってねぇ、本気出せば……」

それに妹よ、一人や二人ってのはダメだろ。

この国は一夫多妻じゃないんだし、そうじゃなくたって、絶対俺には恋愛なんていう甘いものは無理だよ。

中学の時とか、思い切り浮いてたし。

「――ふん!兄貴なんて、ヘンな女子に捕まって何かと思い知れば良いんだ!べー、だ!」

「はいはい」

そんな事を言った所で、学校前の坂道が目に入る。

なるほど、だから呼び方を変えたのか。我が妹ながら視野が広い。

「よぉ兄弟、あれ?遥ちゃんは?」

「朝から顔が近いぞ。遥はもう先に行ったけど、あいつに何か用だったか?」

「いんや。特に用事は無いんだが、気になる話を入手してな」

「何だ、それは?」

こいつが持ってくる情報はくだらない物が多いが、信憑性の高い情報だったりするのが多い。

その意欲を授業中に使えれば、俺より点数取れてるだろうに。

「――俺達の後輩。つまり一年のクラスに転校生が来ているらしいんだが、これがとびっきりの美少女という噂なんだよ」

「嬉しそうに話すな、お前。ていうかお前、年上が好みなんじゃないのか?」

「何言ってんだ、兄弟。女の子で美少女なら、俺は誰でも歓迎だZE♪」

何かアルファベットが言葉に混ざっている気がしたが、俺はそんな事を無視して教室へと向かった。

教室へと入った瞬間、俺の視界が急に真っ暗にへと変わる。

「だーれだ♪」

「おい、くだらない事をしてるんじゃねぇよ月島」

「ちぇ、ノリが悪いなぁ」

俺が冷めた態度を取ると、溜息混じりに彼女はそんな事を言った。

「朝からどうかしたのかお前、何か用か?」

「うわぁ、今日は一段とノリが悪いなぁ彼方っち。何かあったの?」

特に何も無いのだが、そんなにノリが悪いだろうか。

俺は思った事を言っただけなのだが……。

「特に何も無ぇよ。っていうか、俺達こんな事する仲だったか?」

「え、良いじゃん♪私と彼方っちの仲でしょ~」

肩を組まれて、指先でくりくりと胸の上を突いてくる。

「お前こそ何かあったのか?今日は異常なテンションの高さだぞ?」

「え?い、いや~、なんにもないですよ~?」

明らかに目を逸らす彼女は、非常に分かりやすい性格をしていると思う。

それは彼女の弱点でもあり、良い所でもあると俺は素直に思う。

「後で聞いてやるから、放課後付き合えよ。買い物当番だからな」

「あ……うん」

無理矢理にでもこうしないと、彼女は真実を話そうとしないを知っている。

相談事などを普段受け持っている分、自分の事は後回しの奴だからな。

まぁあいつは単純な奴だから、甘いものでもご馳走すれば調子が戻るだろう。


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授業中、自分の言った言葉が思考の邪魔をする。

私と彼の間には、なかなか縮まらない距離というか、壁みたいなものがある。

無意識かもしれないけど、彼は特定の誰かと一定の距離を詰める事はしない。

必ず『一歩引いた距離』というのだろうか。

一枚の壁を必ず設置するような状態で、日常を過ごしている気がする。

中学生の頃からの付き合いだが、これといって浮いた話は聞いて事がない。

恋愛に興味がない訳じゃないのだが、恋愛対象が居ないという事で良いのだろうか?

「…………」

少し前から、私は自分の頭を整理していて自覚している事がある。

私は中学の頃から、無自覚に彼を知っている事が分かった。

気になるという事は、意識していると思って良いのだろうか。

「さて、行くぞ?」

「あ、うん」

放課後になって、彼は言っていた通り私の席へ迎えに来た。

部活動があると説明しても、彼は待っていると言って中庭で本を読んでいた。

彼にとって、私とは……どんな距離にいるのだろうか?

私にとって彼は、何なのだろうか?

「ねぇ、彼方っち」

「んあ、なんだ?」

オレンジ色に染まった帰り道、私はふと思ってそう聞いていた。

だけど彼は迷わず一言だけ言って、答えてくれたのだった。


「大事な友達だけど?」

「――……そっか♪」


私は彼の腕を強引に引っ張り、その帰り道を走るのだった――。



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