第4話「ユウウツ」 ―水無月雪音編―

俺、清水彼方は告白しよう。

生まれて十数年、俺は女子と遊びに行った事は全くないのである。

月島秋穂というクラスメイトがいるが、俺はあいつを女子とは見ていない。

女子ではあるのだろうが、性格というか言動というか。

その部分が男子寄りな気がするから、俺は女子として見れないというのが正しいだろう。

まぁ男子としては、それほど話しやすいから仲良くなれるのだろう。

「部活中の先輩に何か用?馬鹿兄貴」

「うわっ!?」

背後から話しかけられ、声が上ずってしまう。

「何を驚いてるのさ。まさかとは思うけど、月島先輩のテニスウェア姿をえっちぃ目で見てたの?」

「見てねぇよ。もし見てたとしても、お前に迷惑は掛けないだろ?」

そう言って、ラリー中の月島の姿をチラ見する。

確かにテニスウェアのスカート部分が、ひらひらと揺れている。

だが妹よ、あれはパンツではないんだぞ。

あの下にあるのはパンツではないが、それをパンツと思いたいのは男子生徒の夢と希望が生み出した幻想である。

だがあえて言おう。――それが良いんだよ、我が妹よ。

「何で兄貴、拳を作ってるの……」

俺と遥は仲を戻したが、妹から冷えた目で今後見られるのであった。


翌日、朝の10時。

駅前集合という話だったから、駅にあるショッピングモールを覗いていた。

まぁ早く着いてしまったのだが、暇つぶしにはちょうど良いだろう。

日用品や雑貨、そしてゲームセンターと映画館と揃っている。

最近出来たばっかだっただろうか。

休日はほぼ家にいるし、ゲームしかしていない。

腕時計を見ても、後1時間もある。

どうしようか。本屋でも行こうか。それとも待ち合わせ場所に行ってしまおうか。

少し考えてみたが、待ち合わせ場所に向かう事にした。

早く着き過ぎた所為で、俺は欠伸をしながら目的地へ辿り着いたのだが……。

そこには、既に水無月先輩の姿があった。

「せ、先輩!?」

「あ、おはよう、彼方くん」

いつも綺麗なイメージのあった彼女だったが、私服姿がギャップで可愛い。

「ど、どうかな?選ぶの頑張ったんだけど……」

彼女は照れたように頬を赤くして聞いてきた。

俺はどうにかして言葉を選ぶが、綺麗にするべきか可愛いにするべきか。

どきまぎしながら、俺は言った。

「――え、えっと。似合ってます、凄く。えっと、可愛いと思います」

「あ、ありがとう。よかったぁ」

何が良かったのかが分からないが、俺はホッとしたような様子の彼女を見てると口元が緩んだ。

……。

てか何だ?この沈黙は!気まずい!

いや決してこの空間が嫌というのではなく、単に今は二人でしかいないこの空間にただ恥ずかしがってるだけであってだな。

でも空間を一言で表すなら――THE至福!!!

「おー、もう来てたのか兄弟」

「やっほー。先輩もおはようございます!」

「うん、おはよう」

俺の至福タイム終わっちゃったよ!何てタイミングっ!

これはあれじゃないのか?お約束って奴なのか?呪うぞ神様っ!

「あれ、彼方っち、何で泣いてるの?」

「なんでもねぇ」

「分かる。分かるぞ~兄弟」

「二階堂……」

何かを共感したような様子で、二階堂に肩を組まれる。

「――先輩の私服姿が見れて、至福の時なんだろ~?分かる、泣きたいのなら俺の胸で泣くんだ。さぁ!」

「うわ~、引くわー。そんなダジャレが言えて、しかもこんな公の場でBL行為とか。一部には売れそうだけど……」

ごめんな二階堂。俺もそのダジャレには同意できない。

何故ならさっき、俺が思った事だとは言いたくないからだ!

「さて、じゃあ行きますか」

「「おー!!」」

「お、お~?」

「先輩、乗らなくていいです」

「あ、うん」

こうして、俺たちはこの駅内で色々と回る事にした。

ふざける二階堂に止める月島、そしてそれを見て笑う水無月先輩。

俺もなんだか、この空間が一番好きかもしれないぐらい笑っていた。

「じゃあ次はこっちだな」

そう言って、俺が指し示したのはゲームセンターだ。

遊べるし、時間も潰すにはぴったりの場所だ。

「ゲーセンかぁ、久々だな兄弟」

「ウチはいいけど、先輩は大丈夫ですか?ゲームセンター来た事あります?」

「あ、ある……」

「じゃあ行こうぜ!行くぞ~、兄弟!」

「あ、あぁ……」

二階堂たちに連れられて、奥へと進んでゆく。

だが俺は、先輩の様子が妙に気になってしまった。


  ◇


「はぁ……」

なんだか気疲れてしまったようで、肩が凝ってしまった。

単に疲れたと言っても、歩いて遊ぶのは久しぶりなので通じるだろう。

今まで勉強勉強で、まともに羽を伸ばして来なかったからこのありさまだ。

「どうしたんですか?水無月先輩、もしかして疲れちゃいました?」

「あ、えっと……」

ベンチに座ったところで、月島さんが話しかけてきた。

この遊んでるグループの中で、私以外の唯一の女子だ。

そういえば彼女は、二人の事をどう思っているのだろうか?

彼方くんと二階堂くん……彼ら二人の事を。

「あの、月島さん!」

「ふぁ、はい?何ですか?」

ゲームセンターの中にあった販売機で買っていたジュースを飲んでいたらしい。

咄嗟の問いかけで、ストローに口を付けたまま反応してしまったみたいだ。

なんか慌ててるし、ごめんなさい。

「月島さんは、清水くんと二階堂くんと仲良いんですか?」

「う~ん、人並みには良いんじゃないですかね。特にこれといった喧嘩もないし、男女間にしては仲が良いと思いますよ?」

「そうだね。私が見てても、そうだと思うよ。すごくうらやましい」

「先輩、一つ聞いても良いですか?」

私も買ってあった飲み物に口を付ける。

ストローに口を付けたまま、目で「何?」と意志を見せる。

「――先輩って、彼方っちの事好きなんですか?」

「……っ……げほげほっ……」

やらかした。突然の問いに、私は大変やらかしました。

飲んでいた物を少し噴き出してしまいました。

「な、なんで……!?」

「いや違うなら良いんですけど、その反応はビンゴみたいですね。どうぞ」

月島さんはそう言って、私にハンカチを差し出してくる。

何故分かったのだろうか。私はそんなに分かりやすいだろうか。

もしかしたら、それで彼にもバレてたりは――。

「彼方っちには、バレる事はないですよ。あいつは鈍感ですからね」

月島さんは足を振って、口角を上げて言った。

「何でそんな事、分かるの?」

「決まってるじゃないですか……」

ベンチから立ち上がって、月島さんは真剣な表情を浮かべてこちらを向いた。

それだけで、私はどういう理由なのかというのを悟ってしまった。

分かってしまったのだ。

分かりたくなかったという事も、分かってしまった。

「――譲る気はありませんよ。先輩。……それでは」

月島さんは、そう言って彼らの元へ行ってしまう。

「わ、私は……」

その後の言葉は見つからず、自分自身がどうしたいのか。

それが分からなくなって、この後の私は頭の中がぐちゃぐちゃになった。

楽しいはずの一日。彼が用意してくれた一日。

感謝と共に溢れたこの感情は、一体――。


――そして次の日の朝。

私はその気持ちを引きずり、一日中モヤモヤが晴れなかった。

空の曇り空も、まるで私自身の気持ちのようで落ち着かなかったのであった――。





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