友情

 突然、ガイウスが泣き始めた。部屋に二人になったとたん、声をあげて泣き始めたのだ。

「セリヌンティウス。私は死にたくない。死にたくないのだ。できるものなら、あの薬を飲んでしまいたかった。お前に泣きつかれたとき、本当につらかった。生きたい、と心の底から思った」

 セリヌンティウスは目が点になったようだった。こんなこと初めてだ。ガイウスが泣くなんて。竹馬の友であったセリヌンティウスでさえ、彼が泣くのを今まで一度だって見たことがなかった。また、弱音を吐くのを聞くのも初めてだった。

 ガイウスの本音を聞いたセリヌンティウスも、切なくなり一緒に泣き始めた。

「ガイウス、辛かったのだな。心の中では泣いていたのだな。我慢していたのだな。お前は偉い。もう我慢するな。泣け。泣くんだ、ガイウスよ」

 二人はひたすら泣いた。声を上げて泣き続け、ベッドが涙で濡れつくした頃、二人の涙は枯れた。すると、今度はお互いの顔を見て笑い始めた。もし、この光景を誰か赤の他人が見ていれば、頭のおかしいやつらだと思うだろう。しかし、それは大きな勘違いなのだった。この光景こそ、真の友情なのだった。

「セリヌンティウスよ。あれは八歳の時だ。かけっこをしていた時、お前は……」

「その話はやめてくれ。思い出したくない」

「いい思い出じゃないか」

 二人はくだらない、しかし素晴らしい思い出を語り合う。素晴らしい時間だった。あの頃に戻ったように、記憶が鮮明に思い出された。忘れていたことが沢山あったのだ。

 やがて二人は眠くなり、眠っていった。


 次の日の朝。鳥のさえずりと共にセリヌンティウスは目覚めた。

 ふと横を見る。ガイウスは真っ白になっていた。息はなかった。しかし、清々しい顔をしていた。

 セリヌンティウスは目に浮かんだ涙を拭い、ベッドから立ち上がる。

「お前のことは絶対忘れない。さらばだ、友よ」

 そう呟き、ガイウスの家から飛び出した。東にある街、セリヌンティウスの故郷へと向かって。ルクレティウスが待つ街へと。

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