復活

「立て、セリヌンティウスよ」

 太く、堂々とした声だった。その声は、倒れるセリヌンティウスに向けられている。

 セリヌンティウスは声の主を確かめようと、視線をあげた。しかし、その者はフードを深く被っているせいで、さっぱり誰なのか分からない。

「お前は誰だ」

 その者は言った。

「私はお前だ」

 セリヌンティウスは理解に苦しむ。

「何を言っている」

「難しく考える必要はない。私はお前の混乱の感情を打ち消すために、お前自身が作りだした幻想なのだ」

 彼はそう言うと、フードを脱いだ。その顔を見て、セリヌンティウスは呆気にとられる。なんと、セリヌンティウスと全く同じ顔だったのだ。しかし、その表情は今の倒れているセリヌンティウスの気の抜けたものではなく、堂々と凛々しいものだった。

「私は無意識のうちにそんなものを作っていたのか。しかし、もう無理だ。私は立ち上がることができない。私の心は枯れ果ててしまった。もうこのまま死んでしまいたい」

「ほざくな」

 セリヌンティウスの幻想は力強く言った。

「お前が死ねば、たくさんの人が苦しむことになる。メロス、ルクレティウス、ガイウスだ」

「そうだろうな。私のせいで彼らは死んでしまうだろう。申し訳ない」

 セリヌンティウスの幻想はさらに声を大きくする。

「違う。彼らは自らが死ぬから苦しむのではない。お前が死ぬから苦しむのだ。お前の死に苦しむのだ」

 その言葉に、セリヌンティウスの心の中で何かが弾けた。気づかされたのだ。そして、彼の目に輝きが戻りつつある。

 セリヌンティウスの幻想は続けて言う。

「お前は、たくさんの人たちに愛されている。そんな人たちに、お前がしてやれることはなんだ」

 セリヌンティウスは確かに温かい心を取り戻す。

 セリヌンティウスも、幻想に負けないくらい力強い声で言う。

「走ることだ。ただひたすら走ることだ」

 幻想は満足したようにうなずく。

「よし。では、立て。もう一度立て、セリヌンティウスよ」

 セリヌンティウスは立ち上がる。その力強い立ち姿は、百獣の王のようにも見えた。

 彼が立ち上がると、すでにセリヌンティウスの幻想は消えていた。その幻想と共に、セリヌンティウスの心の迷いは完全に消え去った。彼は勝ったのだ。己自身に。それは、大きな大きな勝利だった。ありがとう、幻想よ。

 彼は夜空を見上げた。いつの間にか雨はやみ、空には満天の星空が見えている。その星々は、セリヌンティウスの復活を祝うように輝いていた。

 彼はガイウスの家の場所を知るべく、街人を見つけようと走り始めた。

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