第7話

 布団が無くても四月になったためかあまり寒くない。これなら大丈夫そうだ。意地でも寝たふりしてやる。


 不意に、頰をツンツンとされた。そしてそれが終わったらうにょーっと引っ張られる。目を閉じているので外の世界は見えないが、おそらく涼華りょうかが指で俺の頰を弄んでいるようだ。えー、どーいうこと。


「寝顔だけは……いいのに」


 そういうことね、完全に理解した。


「と、そろそろ起こさないと。こいつ」


 さっきのは幻想だったようだ。夢でも見ていたんだろう。どうもです。

 カチッとスイッチを押す音が聞こえた。やばい、来る。

 何か冷たいものが腹のあたりに当たった。


 そして、風が、来た。


「うぉぉぉお!寒っ‼︎寒い寒い‼︎」


 たまらず飛び起きた俺はまず壁に手をぶつけ、その痛みで大きく後ろへ仰け反ると本棚に頭をぶつけ、床へ転がり落ちた。テンプレドジっ子とは俺のことだったらしい。


「あはははっ!」


 体を起こしてまず目に入ったのは、笑い転げる涼華。本気で笑っているみたいだ。次に『ミニ扇風機』。新兵器…だと…。


「お兄ちゃんが全然起きなかったから悪いんだからねっ」


 変わり身の早さ金メダル級の涼華は、扇風機を部屋の端の方へ押しやりながら俺に最上級のあっかんべ〜をしていた。だからなんで自分で持って降りないのかなぁ。


『こいつ』から『お兄ちゃん』へとレベルアップしたついでに半年ほど前から気になっていたことを涼華に聞いてみることにした。


「なぁ、涼華」


「……ん、何?」


 俺が声のトーンを落としたことに気づいたのか、涼華はやや真剣な眼差しで俺を見ている。

 笑顔が消えると一気に印象冷たくなるよなぁこいつ、とか思っていたら半眼で睨まれた。これ以上悟られると厄介なので続きを言う。


「お前ってさ」


 コクリと喉がなった。どちらが鳴らしたのかは分からない。




「………俺のこと好きなの?」




 直後、俺の鳩尾みぞおち辺りに鋭い衝撃が来て、クラリと意識が遠のいた。俺が最後に見たのは胸元にある涼華の左足と、怒りによって真っ赤に染まった涼華の顔だった。

 今の技には見覚えがある。ていうか俺も使える。小さい頃から父さんに護身術として教えられてきた新峰流格闘術の参ノ型・瞬影だ。ここまで綺麗に決められたことは無かったので正直びっくりだ。というか俺はこんなあまり威力のない技で気絶させられる俺自身に一番びっくりしている。弱いな、俺。







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