第22話:手段は選ばないでしょう?
「その前に、改めてお礼を言わせていただきますね。先日はジェミィさんの救出にご協力いただいてありがとうございました。話には聞いていましたけど、すごいですね。件の誘拐事件、ジェミィさんではなく朝霧が誘拐されたものに完全にすり替わってしまった。あなたが警察での説明に協力をしてくれたからです」
コチラを見ようともしない槇に、壬鷹は柔らかい口調で礼を告げる。
「いいえ。あれは取引です。厚意じゃない。ジェミィさんからもすでにお礼と約束の『音を拾う』石を頂いています。これ以上は不要です」
槇のそっけない言い方に、壬鷹は苦笑いしつつ指を組んだ。
「ではもう一件の取り引きについての話をしましょう。取り急ぎ納品いただいてありがとうございました」
「使えましたか?」
「バッチリ。相性が良すぎたんですかね? ほとんど、自分のことも忘れてしまいましたよ」
槇はぎゅっと目を細めて自分の手を見つめた。
「あなたが処分に困っている石。『売れない石のリスト』の話はジェミィさんから聞いてました。その中に『忘れる石』があることも。正直、あなたが取り引きに応じてくれるかどうかは賭けだったんですが……。随分吹っかけてくれたところを見ると、あの時、何でもいいからとにかく俺たちに
壬鷹はふふっと笑ったが、槇は相変わらず彼を
「犯人のひとりはジェミィさんの秘密を忘れる必要があった。だからあの二〇〇万円のクンツァイトはどうしても必要だったんです。本当にありがとうございました」
壬鷹はごそごそと鞄の中から分厚い封筒を取り出すと、カウンターの上にパタンと置いた。
「ちょうどあるはずです。確かめてください」
槇は観念したようにふうと息をつくと、壬鷹に向き合って腰を掛け、置かれた札束を数えはじめた。
「このことは、ジェミィさんも知ってるんですか?」
槇が尋ねると、壬鷹は笑顔のまま「まさか」と言った。
「俺の判断で、俺のお金ですよ、槇さん。だから領収書はオルテンシアで切らないでくださいね」
「……あなたは、罪悪感とか……」
そう言いかけて槇は口をつぐんだ。すぐに資格がないと自覚したからだ。壬鷹はそんな槇を微笑ましげに見た。
「あなただってそういうタイプじゃないですか」
「え?」
「あなただって、手段は選ばないでしょう? 朝霧が殺されるような状況下では」
槇は目を見開いて壬鷹を見つめた。その男は不敵に笑っていた。
「やっとこっち見た」
壬鷹は楽しそうにそう言った。
「言っておきますけど、俺は何も知りませんよ。あなたの本質を責めようとか、広めようとか、脅そうとか、そういう気は一切ない。見えているものを、見えているように言うしか脳がないんです」
槇は眉間にしわを寄せ、壬鷹を睨むように見た。
「睨まないで下さいよ。怖いなぁ。もし朝霧にあの石をどうしたか
「……壬鷹さん」
「だから、俺のこの気持ちも。俺が彼女のためにあの石を使ったことも、内緒にしてくださいね。槇さん」
槇は小さく頷きながら、こいつは、共犯になりに来たのだ。と理解した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます