第21話:閉店の時間
『名前のない宝石工房』が閉店の時間を迎え、槇が誰もいない店内を歩き回ってディスプレイの電気を消し始めたころ。チリリ、と店の扉が開いたことを告げる鐘が鳴った。
「あ、今日はもう……」
槇が振り向くと、そこに居たのは壬鷹だった。槇の
「すみません、今日はもう閉店です」
すぐにいつもの朗らかな笑顔を見せたが、そのわずかな変化を壬鷹は見逃さない。
「そんなに警戒しないで下さいよ、支払いに来たんです」
槇は少しだけ黙り込んで、ちらりと工房の方を見やった。中には間宮、ライカ、朝霧がいる。
「皆が帰ってからでいいですか? 早く店を閉めたいんで」
「もちろん」
壬鷹が頷くと、槇は彼に座るように言い渡すことなく閉店作業を続けた。そうしていると奥から間宮が出てきて、薄暗い店の中にいる壬鷹を見て驚いた。
「あっ、今日はもう閉店で……」
「ああ、閉店後の商談で来たんだ。ありがとう」
間宮は「そうだったんですね」と微笑んで、カウンターの椅子に座るように促した。
「急いで閉めますね」
「いいよ間宮さん。姫野さんが外で待ってるみたいだし、もう上がっちゃって」
「え!?」
槇に言われて外を見ると、姫野が立って待っているのが見えた。今日は姫野の家にお呼ばれする予定だったからだ。
「あ、ありがとうございます。槇さん。じゃあお言葉に甘えちゃいますね」
間宮は好意に素直に甘え、壬鷹の方に振り返った。
「壬鷹さん、この間は大変でしたね。ジェミィさんは元気ですか?」
「うん。全然変わらない。ありがとう、いろいろ手伝ってもらっちゃって」
「いえっ。一時はどうなることかと思っちゃいましたが、皆が無事で良かったです。じゃあ、失礼しますね!」
そう言って工房の方へ戻ると、すぐに荷物を持って戻ってきて、「お疲れ様でした」とお辞儀をし、間宮は店を出て行った。
「……可愛いですね」
壬鷹がふふっと笑うと、槇はレジのお金を処理しながら「そうですね」と温度のない声で返した。
「ちょっと、可哀想だけれど」
「……? なんのことで……」
槇が眉根を寄せるのと同時に、ガチャリと工房の扉が開いた。
「お疲れ様ー……、あら、壬鷹?」
ライカと朝霧が出てくると、壬鷹はヒラヒラと手を振った。
「どうしたの……? ああ、支払いかしら?」
「ええ、まぁ。この間はどうも。朝霧も、警察に色々証言してもらっちゃって、ごめんね?」
朝霧は不機嫌そうな顔のまま「二度はごめんよ」と言うと、すたすたと店の出入り口へ向かった。ライカは苦笑しながらも壬鷹に手を振ると、朝霧を追って店の外に出て行った。
店から自分たち以外いなくなるのを見送った壬鷹は、「さて」と、微笑みながら槇を見た。
「もう、本音で話していただいても大丈夫ですよ? 槇さん」
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