第20話:プレゼントと取り引き
頬が痛い。世界が白い。
「ああ、目覚めました?」
その男の声は、やけに明るい声でそう言った。声の主を見上げると、それは壬鷹だった。
「お、お前は……」
「
彼はにっこりと笑い、愛らしく首を傾いで見せた。
「現状をお伝えしますね」
浅瀬ははっとした。椅子に縛り付けられている。そして、白くて何もない部屋に閉じ込められている。大声なんて出しても無駄だろう、という静けさだ。
「あなたのお仲間の
「……あさ……ぎり?」
「ああ、まぁ気にしないでください。そこは大事なところじゃあないので。それで、あなたは一応、容疑者の一人として捜索されています」
「な…なぜ! ここは警察じゃあないのか?」
「違います。あなたのよく知るところですよ。オルテンシアの地下です。」
「オルテンシアだと? なぜ、私を警察に引き渡さない……?」
壬鷹は笑ったまま数秒間黙り込んだ。その表情からはまったく何の感情も見つけられず、浅瀬の背中は凍りついた。
「そりゃあ、まずはお礼。……ですかね?」
その瞬間大いに視界が揺れた。
「ぐ……うあああああああああああ!?」
「ああ、すみません。あんまり手加減できなくって。俺の手だって痛いんですからね。普段人を殴ったりしないんで」
壬鷹は淡々とそう言うと、赤くなった右の拳をヒラヒラと振った。「痛い」など嘘としか思えないくらい、平然としていた。
「それから、あなたはジェミィさんの『秘密』を知ってますよね?」
「……秘密……、若返っていることか?」
「イエスともノーとも言いませんよ。なんせ効果のほどは個人差があるんで」
「……は?」
何を言っているのか、理解不能だった。
「それを、忘れていただきたいんですよ」
「は……、まさ、か。忘れるまで、殴る気か……? あの女の子みたいに……」
そこでハッとする。思い出す。此処に来る前の、最後の記憶にある
「まさか? それじゃあ俺の手が折れちゃいますよ。いやだなぁ」
壬鷹はへらっと笑い、ズボンのポケットに手を入れた。
「あなたにこれをプレゼントしますよ、浅瀬さん。美しいクンツァイトだから、きっと気に入ると思います」
「クン……ツァイト?」
「あれ? さすがにわかりますよね? 石ですよ石」
そう言って壬鷹は縛られた浅瀬の手の上に、美しい発色の紫の石を置いた。
「わかる……が、これが……これは……見たことがないくらいの透明度と色合いだな……」
壬鷹はにっこりと笑った。さすが、長年宝石商に勤めているだけあって、良い眼だ。
「気に入っていただけたのなら、この石はあなたにあげます」
「……まさか、これで口止めをする気か……?」
「そういうところです」
胡散臭い笑顔だ。と浅瀬は思ったが、それにしても美しい石だ。と心の中で呟いた。
「ジェミィさんもあなたが黙っていてくれるなら、逃がしてあげてもいいと言っている。こわーい人たちがあなたを探しているという話も聞いているので、しばらくあなたは此処で匿わせていただきますし。どうですか? いい条件じゃあないですか?」
「…………あぁ。そうだな」
浅瀬は首を縦に振るしかなかった。
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