第19話:呪ったのは私

 朝霧は後悔していた。

 さっき吐いた言葉は自分はおろか、自分がいた種で巻き込んでいった人たちすべてを侮辱する言葉だった。けれど、間違いなく本音だった。

 蟲に余命を宣告された。

 蟲が見せてくる世界に脅かされてきた。

 蟲の声が耳障りで仕方ない。

 なんでこんな目に合わないといけないの。なんで他の人は平然と幸福を享受きょうじゅしているの。

 幼い割に成熟していた頭の中で、蟲への怒りが渦巻いていた。それが尖った信念に変容していった。そうして蟲を利用したこと、槇を利用したことは本当に正しかったのだろうか。

 生み出した宝蟲石たちは、周りの人を幸福にすることもあるし、不幸にすることもあっただろう。その行く末になんて、本当は興味がなかった。それも人生だ。それも運命だ。自分に課せられたそれと同じだ。そう思っていたのに……。間宮と出会うまでは。


 感覚を失う石。


 そんなものを間宮に間違えて納品してしまったこと。その間宮が店で働くようになったこと。その間宮が本当に優しくて、心地よい人間だったこと。それが、朝霧の考えを少しずつ変えていった。


 ――彼女を呪ったのは、蟲じゃない。私だ。



「朝霧」

 はっとした。

 すっかり白い煙は薄れていた。壬鷹が大量に買ってきた発煙筒はつえんとうが、効果を失い始めたのだ。

「……ライカ」

 朝霧は階段を上がってきたライカを見つめた。彼は朝霧の足もとに倒れる二人の男たちを見やり、安心したように息をついて笑った。

「怪我はない?」

 朝霧は頷く。そして俯く。なんとなく、表情を見られたくなくて。

「後悔しないで朝霧」

 ライカが朝霧の肩に優しく手を置いた。それは、何を指しているか曖昧な言葉。けれど、すべてを見透かした言葉だった。

「誰も正しい道ばかりは選べない。自分だけが間違うわけじゃないし、自分が間違わなくても他の人が同じ間違いを犯す。物事なんて、その時各々おのおのが正しいと思って選んだことが積み重なってるだけ」

 朝霧は口をつぐんだ。

「正しくないと思ったら、私もきっと此処にはいない。間宮も。店長もね」

「…………ライカ」

「何?」

「私が間違えてると思った時は……、ライカが言ってくれる?」

 ライカは少しだけ目を丸くして数秒黙った。そしてふわりと微笑んで、朝霧の頭をくしゃりと撫でた。

「喜んで」

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