第16話:疑問符
戻ってくるのが遅い。そのことに残された二人の男たちは焦っていた。窓の外はすっかり赤っぽい煙に包まれてしまい、何も見えなくなっている。外の様子がわからない以上、やはり迂闊に動けない。
「火事じゃ、ないの?」
そんな二人に向けて、ジェミィがポツリと問いかける。
「ねえ、逃げなくてもいいの?」
幼女のまっすぐな問いかけに、男たちは戸惑った。そんなことはわかっているのだ。わかっていて動けないのだ。しかしジェミィの発した「火事」という言葉が、二人の心臓をぐわりと締め付けた。
その時だった。扉の隙間から白い煙が勢いよく入り込んできた。
「うああ!」
声を上げたのは若い男だった。
「逃げましょう!
「待て! 連れていかないと……!!」
浅瀬と呼ばれたオルテンシア社員の男は急いでジェミィに駆け寄り、縛られた彼女の足の縄を
「!」
するとどうだろう。その縄はいとも簡単に解け、床にはらりと落ちた。
「え……?」
ジェミィはすかさず立ち上がり、すたすたと扉の方へ歩きだす。浅瀬はすぐに我に返り、縛られたままのジェミィの腕を掴んだ。
「勝手に動くんじゃない!
木田と呼ばれた若い男はこくこくと頷くと、勢いよく扉を開けた。
瞬間。
「うわああ!」
煙が部屋の中に入り込んできた。一気に視界を奪われる。
「い、急げ!」
浅瀬はジェミィの腕を引っ張りながら口を押さえて身を屈め、煙の中に飛び込んだ木田に続いた。
――想像以上だった。
目の前がまっしろな煙に包まれて前が見えない。けれどせめて二階へ行かなければ。三階から飛び降りるなどただでは済まない。焦る男たちは階段を目指して手探りで前進していく。しかし、数歩進んだところで、掴んでいた腕がグワリと後方へ引かれた。
「おい……!」
手の中から一瞬、ジェミィの細い腕が離れる。しかしすぐに小さな手が浅瀬の服を掴む感触があり、浅瀬は胸を撫でおろした。
――あれ?
疑問符。先ほどから、何かおかしい。何かを見落としている気がする。
「浅瀬さん……! 早く!」
木田が呼ぶ。バタンと扉が閉まる音がする。進まなければならない。進まなければ……。
――いや、違う。
「…………。何故、扉が閉まったんだ……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます