第2話:自信がつく石

「槇の元同僚?」

 工房側に顔を出した間宮が先ほどの来客について朝霧アサギリに問うと、彼女は首を傾げた。

「さぁ、私は知らないわ」

「そうなんだ。もともと営業だったなんてちょっと意外だな。いや、営業もすごくうまそうなんだけど、サラリーマンだったっていうのが想像つかない」

「……」

 朝霧は出会った頃のスーツ姿の槇を思い出し、「胡散臭い社会人だったわよ」と呟いた。

「朝霧が養子になった時は、まだ前の会社に勤めてたの?」

「……そうね。ちょうど辞める頃だった」

「へぇ」

 間宮はその頃の朝霧と槇に想像をめぐらせ、ふふっと微笑んだ。

「あ、そういえばジェミィさんからさっき電話があって、今度の金曜日、朝霧とアポイントを取りたいって」

「何の用って?」

「なんか紹介したい者がいるからって」

「槇に、じゃなくて?」

「朝霧にって言ってたよ」

 朝霧はあからさまに怪訝けげんな顔をし、首を傾げた。その仕草すらなんだかさまになる。その美少女っぷりにと間宮は改めて感心した。

「まぁ別に、私がいる時間に来るのならいつ来てもらってもいいわ」

「うん。そう言うと思って、伝えておいた」

「ありがとう」

 朝霧はお礼を言うと、手に持っていた石に向けて集中力を研ぎ澄ませていった。こうなれば朝霧はしばらく手を止めないだろう。間宮はそんな特異な少女に見とれて息をつき、彼女が磨き終えた石の置かれている棚を覗き込んだ。

「……ガーネット?」

 そこにひときわ美しいあかい石が置かれていた。粒は小さいけれど、透明度やきらめきは確かで、高級な宝石店に並んでいてもおかしくない出来栄えだった。

「オーバルカット……かな。綺麗」

 最近では間宮もカッティングの種別がわかるようになっていた。その微笑ましい成長に、朝霧は少しだけ目を細め小さく微笑む。間宮はそんな朝霧の表情の変化に気づくことなく、カードに描かれた宝蟲石ほうちゅうせきの呪いを管理表に写していく。

「自信がつく石……。へぇ。なんか、すごくまとも」

 呪いにまとももくそもないが、普段はありがたいんだか、ありがたくないんだかわからない呪いが多いので間宮は思わず声を漏らした。

 この美しさでこの呪い。これは高値がつくだろうな。と、間宮は管理表の端に自分が予想した査定額を記入した。鑑定士のまねごとではあるが、間宮にとっては修行のひとつなのだ。

 この店は、ひとりひとりの負担が大きい。朝霧やライカだけでなく、槇がいないとできないこともたくさんある。その負担を一つでも間宮が請け負えればと、積極的に取り組み始めたのである。

「楽しみだなあ」

 今日はライカがいないから、このガーネットがどんなアクセサリーになるかはわからないけれど、この石は凄く素敵な商品になるのではないか、と間宮は期待に胸を膨らませたのだった。

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