第22話:死ぬ呪い

「遠山という女、死んだらしいわね」

 翌朝、ジェミィが商談のために再度訪ねてきて、開口一番そう言った。

「聞けばあなたのところにも顔を出していたんですって? そして、あなたのストーカーでもあったと」

「そうみたいですね」

 槇はそっけなく言った。そんな槇を見てジェミィは満足したようだった。

「彼女はうちの大口のお客様だったのに、残念だわ」

「宝蟲石を大量に持っていたのは、やはりあなたの顧客だったからですか……」

「そうね。うちは、求める者には必ず商品を売る。止めるようなことはしない」

「そうですね。それが、ビジネスというものです」

 ジェミィはくすっと笑った。

「怒っているの?」

「怒っていませんよ」

「……そういうことにしておいてあげる」

 ジェミィはそう言って、槇が手渡した石のリストをじいっと眺めた。

「彼女は指にブラックオニキスの指輪をつけていたそうね」

 リストを眺めながら彼女が呟いた。

「へぇ……そうなんですか」

「うちの販売リストにはなかったから。あなたのところで買ったのかと思ったけれど、違ったのね」

「違いますね。それが何か?」

「『売らないリスト』、の中にブラックオニキスがあったから」

「ああ、はい。ありますね」

「……そうね。これは売れないわね」

 ジェミィはふふっと笑った。

 事の結末をわかっているようでもあったし、単純に珍しいと思ったからかもしれない。



 ――昨夜。


 怒りにまかせて色々吐露とろしてしまったことに少し呆然としてしまった後、槇は慌てて遠山を追いかけた。

 彼女は朝霧を殺すつもりだ。急いで止めなければ。

 そして自分の家へと走り、帰るその途中。マンション手前の交差点でひどい事故が発生しているのを目撃した。車が大破し、バイクがぎ倒され、人が倒れている。野次馬もたくさん集まっており、阿鼻叫喚あびきょうかんそのものだった。

「……」

 そんな情景を、槇は何の感情もなく数秒間眺めた。

 。ただ、もっと何か感情が湧くと思っていたのに、存外自分の心はいでいた。そのことに対して、「そんなものか」と槇は呟いた。

 そして何事もなかったかのように歩いてエントランスをくぐり、エレベーターに乗って自室へと戻ったのだった。



「売れないわよねぇ」

 ジェミィが再度、確かめるようにそう言った。

 そして槇の眼を覗き込むように見つめ、こう言った。

「『』呪いの石なんて」



第三章 完

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