第7話:碧眼の少女

 姫野は浮かない顔でぼんやりと空を見上げていた。昇降口でゲリラ豪雨が止むのを待ちながら。

 最近間宮の元気がないことはわかっていた。そしてその理由も知っていた。クラスメイトの黒田に告白されたからだ。

 姫野は、間宮のことが好きだった。友達としてではない、これが恋慕れんぼの情であることを彼女は理解していた。そしてその気持ちは決して間宮にばれてはいけないということも。

「帰ろう……」

 本当はゲリラ豪雨が去るのをではなく、間宮が降りてくるのを待っていたのだが、今間宮に会うと自分の気持ちを伝えてしまいそうなので、会わないほうがいいと思った。そうして、校門を出ようとしたところだった。


「姫野さん?」


 名前を呼ばれて顔を上げると、そこに立っていたのはどう考えても小学生くらいの女の子だった。

「は、はい」

 見たことがない少女だったが、彼女があまりに堂々としていたので、つい答えてしまった。

 よく見ると緑色の瞳に、髪と同じ栗毛の長いまつ毛、日本人離れした顔立ちをしていた。お人形のようだな、と姫野は思った。

「あぁ、良かった。ライカの似顔絵って本当によく似るのね」

 何を言っているのだろう。

 姫野は首をかしげたが、ライカという名前には聞き覚えがあった。

「あなたがオーダーした宝石のことで話があるの」

 そこまで聞いてピンときた。

「あ、もしかして、宝石工房の……」

「そう。私は研磨師けんまし朝霧アサギリ。本当はこういうの、マキ……店長が来るべきだったのだけれど、諸事情あって私が来た。初めまして。姫野さん」

「はじめ、まして……?」

 目の前の少女は明らかに子供なのに、あの工房の技師を名乗った。もしかすると極端に童顔で小柄なだけかもしれない。年齢を聞くのも失礼だと思ったので、姫野はひとまず少女の話を聞くことにした。

「先日納品したブローチの石なんだけれど、こちらの手違いで、誤った石をはめてしまった。まだ、石を持ってる?」

「あっ、いえ、あれは人にプレゼントしたので……」

 それを聞いて朝霧は明らかに困った、もとい、不機嫌そうな顔をした。

「なるほど。我々には説明責任があるので、ひとまず石についての説明をするわ。まず、あの石の効果は納品の際に説明した『素直になれる』ではない」

 朝霧はごそごそと鞄の中をあさり、小さな箱を取り出した。

「こっちの石が、『素直になれる』呪いを持った石よ」

?」

「……言い間違えました。効果です」

 朝霧はピクリとも表情を変えずに言い直した。かなり不安な言葉が出たのだが、あっさりと無かったことにされた。

「そして、あなたに渡してしまった石の効果だけど、それは『感覚を失う』効果がある」

「……は?」

「感覚を、失う」

 ゆっくりと、復唱する。


「その石を身に着けた人は、感覚を失ってしまう呪いにかかる」

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