第5話:間宮の憂鬱

 店を訪ねた日から数日。その日も雨が降っていた。

 間宮はやはり憂鬱だった。じめじめする季節は基本的に憂鬱だが、それ以上に好きでもなんでもないクラスメイトに突然告白されたのが原因だった。

 姫野にも相談できず、間宮はどうしたらいいか悶々もんもんと考え続けていた。恋愛など、これまでの人生でしたことがなかったし、その男子のことは友達としてしか見れなかったのだ。答えが出ているにもかかわらずうまく断れないのは、単純に間宮の経験不足のせいだった。


「間宮。手を出して」

「え?」

 休み時間。突然姫野が間宮の前の席に座り、にっこりしながら手を出せと言った。何かとは思ったが、間宮は素直に右の手を差し出す。

「はい。プレゼント」

「?」

 小さい箱が手のひらに置かれた。

「開けていい?」

 姫野はにっこり笑って頷く。箱を開けると、そこには黄色い石のついたブローチが入っていた。

「えっ! なにこれ? 綺麗」

 華がモチーフになっている直径四センチほどのブローチ。少しくすんだ銀細工部分もアンティーク調で素敵だ。この雰囲気のデザインには見覚えがあった。

「これって、もしかしてあのお店で買ったの?」

「うん。間宮に似合いそうって思って」

「あっありがとう姫野! 嬉しい!」

 突然のサプライズに、それまでの憂鬱が吹き飛んだ気がした。

「あ、でもこれって高かったんじゃ?」

「ううん。私のお小遣いで買えるくらいのものだから。そんなに高くないわよ」

 それはお小遣いの額によるのでは……。と間宮は思ったが、あえて突っ込まなかった。プレゼントの金額の話など、きょうめる話はいきじゃない。

「今度、姫野にお返ししなきゃね。とっときのやつ」

「あはは、ありがとう。でもこれは日ごろの感謝の証みたいなものだから。気にしないで」

 ああ、姫野と友達で良かったな。と間宮は心から思った。


 間宮と姫野は、小学生のころからの友人だ。

 おとなしく、可愛らしい姫野はいたずらが大好きな男子たちの格好の標的だった。男子たちに意地悪をされるたびに間宮が割って入り、姫野を守っていたことで二人は親友になっていった。

 裕福な家庭の姫野とは、いろいろギャップを感じることはあっても、間宮はそれを大して気にしていなかった。そして、そのことが姫野にはとても嬉しいのだった。


「私とずっと、友達でいてね。間宮」

 姫野は少し照れながら微笑んだ。

「うん。当り前だよ。ほら、似合う?」

 間宮はブローチを制服につけて満面の笑みで笑った。

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