第4話:夢がないなぁ

 間宮と姫野は二人してこのオーダーの一部始終を聞いていた。それはとても不思議なやり取りだった。

 女性は原石を店長に渡して、五百円のみ支払い帰って行った。

「なにか、気になるものはありましたか?」

 女性が帰るや否や、店長の男が振り向いて問いかけてきたので、二人はびくっとしてしまった。ずっと覗いているのがバレたと思ったのだ。

 しかしそういうわけではないようだった。気づけばすでに二人以外に客はいなく、五時を回っていることに気づいた。随分と長居をしていたのである。

「あ、いや、別に!」

 アパレル店などでも店員と話すのに慣れていない間宮は、会話を避けようと思いっきり首を振った。だが、対照的に姫野は彼と会話を始めた。

「あの、今の鑑定とか、石を原石から取り出すとかってやつ、学割なんてあるんですか?」

「はい。ございます。石を削り出す技術料が半額になります」

「二万五千円ってことですか?」

「税抜きで、そうです」

 それでも学生にはかなり高額だった。

「おもしろいですね」

 姫野はふふっと笑った。

「ありがとうございます。ご興味がございましたらご検討いただけると」

 店長はにっこりと笑った。姫野はそれ以上会話を続けず小さく頷くと、間宮のほうに振り返った。

「間宮、私もうそろそろ帰らないと。門限に間に合わないかも」

「あ、そうだね。そろそろ帰らないと」

 間宮は時計を見て同意し、ちらっと店長のほうを見た。彼はそんな二人を見て微笑んでいた。

「ぜひ、またお越しください。日ごとに店に並ぶ石も変わります。見に来るだけでも」

 間宮と姫野は頷いて店を出た。


「ね、ちょっとおもしろそうだったね」

 帰り道、姫野がうきうきしながら言った。どうやらあの店のことを相当気に入ったらしい。

「うん。まぁちょっと高いけど、自分だけの石が原石から作れるって、あんまりないし。普通におもしろそうだった。パワーとかは、別に信じないけど」

 間宮が淡々とそう言うと、姫野はくすくす笑った。

「夢がないなぁ、間宮」

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