第3話:オーダーメイド

 センスのいいアクセサリーは見ているだけでも楽しかった。

 二人は気が付けば二十分ほどその場で色々なアクセサリーを見ていた。アクセサリーはすごく高価なものもあったが、高校生の二人でも手が届きそうなものもいくつか並んでいた。


「いらっしゃい」


 後ろから声を掛けられ二人が振り向くと、そこには一見男か女かわからない洋服を着た人物が立っていた。黒髪のパッツンアシンメトリーで片目が隠れている。いかにもデザイナーという風貌だ。その人は右手にポップ、左手に綺麗な指輪を持っていた。

「気に入ったものはあったかしら、お嬢さんたち?」

 棚の一角に指輪とポップを置きながらその人物は尋ねてきた。

「あ、はい。見てるだけですけど」

 間宮が答えると、その人はくすっと笑った。

「私はライカ。この店にあるアクセサリーは全部私のデザインだから、気に入ったものが一つでもあれば嬉しいわ」

 ライカはれっきとした男性なのだが、その風貌に加え口調がオネェなものだから、初対面の人は彼の性別に関していつも一考を求められる。実際、間宮も彼の性別について数秒間首をかしげた。

「ポップとか、お店の中のデザイン、全部手掛けてるんですか?」

 姫野が尋ねると彼は「ええ」と頷き、それ以上特に営業もせず、にっこり笑ったままカウンターの奥の部屋へと入っていった。きっと店の裏に工房があるのだろう。


 そこへ、一人の女性が店にやってきた。


「いらっしゃいませ」

 カウンターの向こうに座る男は、さっきと全く同じ調子で客を歓迎した。「もしかするとこの人、人形かも」と思うくらい、さっきと同じトーンの『いらっしゃいませ』だった。

「すいません、この原石、鑑定と加工をお願いしたいんだけど」

 身なりの良いその女性は入店するや否や、カウンターのところにあったアンティーク調の椅子に腰を掛けた。そして、革のカバンから十センチほどの石の塊を取り出した。

「かしこまりました。今回初めてのご利用ですか?」

「はい。友人に勧められて」

「承知しました。ではまず料金とルールについてご説明いたします」

 店長はクリーム色の上質紙を取り出して、彼女の前に差し出した。

「当店では、原石をお持ちいただければ一点一律五百円で鑑定を行います。この鑑定は、この石に何らかの効果、パワーがあるかどうかを調べるものです。効果の内容はもちろん、透明度や品質を調べるものではありません」

 店長の説明は、販売スペースにいた間宮と姫野の元まではっきり聞こえてきた。先ほどの怪しい黒板のことが気になっていた彼女たちは、顔を見合わせて彼らの会話を盗み聞くことにした。

「原石はどんな石でも構いません。宝石である必要も、希少石である必要もありません。極端なことを言うと、その辺の川で拾ってきたものでも構いません」

 なんじゃそりゃ、と間宮は呟いた。

 だって、原石があってこそ宝石だ。石ころからルビーやサファイヤが取れるはずがない。加工したところでただの石ころだ。

「効果の有無についてご納得がいただけるなら、そこから加工を施して宝石を取り出します。逆に、鑑定なしでその工程に進むこともできますが、そういったお客様はあまり多くありません」

「私は鑑定を望むわ」

 客の女性ははっきりと言った。

「かしこまりました。お客様。鑑定結果が『効果あり』となった場合、ご希望でしたら原石から宝石を取り出します。石を削り出す料金は、これまた一律五万円です。学生の場合学割もありますが、お勤めですよね?」

「そうね。学生証は数年前に卒業したわ」

 彼女はくすっと笑った。

「その工程でようやく、その石の持つ効果が何か分かります。もしも効果にご納得いただけなかった場合、その石の買い取りも行っております。宝石の原石から取れた石については、鑑定を専門機関に依頼します。ただし価値のない原石から取れた石の場合、無料での引き取りになります」

「私が持ち込んだ原石は蛍石ほたるいしなんだけれど」

「それでしたら、大きさによりますが、数千円から数万円くらいの値がつくでしょう。あとは出来上がった宝石をご確認いただき、さらにアクセサリー加工する場合はデザイナーがオーダーメイドでデザインさせていただきます。その際はデザイン料に加え、追加で加工に必要な素材――例えばプラチナやゴールドですね。それらの素材料金を提示させていただきます。予算に合わせたデザインも可能ですのでお気軽にご相談ください」

「いいわ。すごくわくわくするわね」

「ありがとうございます」

 男は軽く頭を下げた。その仕草はとても優雅だった。

「では、原石をお預かりいたしますので、こちらのシートの必要事項をご記入ください」


 交渉は成立した。

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