第2話:名前のない宝石工房
その店は、住宅地の中に隠れるように立っていた。
なるほどレトロな外見で、古い喫茶店のような雰囲気を
「名前のない宝石工房……? 変な名前ね」
おしゃれな看板には長ったらしい店名が書かれていた。
「でもミステリアスで素敵じゃない?」
まあ、姫野の言うことも理解できる。ぐにゃりと曲がった木の窓枠はガウディの建築を思わせたし、そこには思想や宗教が込められていそうで、魔女の家のような怪しさもあった。
扉を開けると、小さな鐘が深い音でチリリンと鳴った。
「いらっしゃいませ」
入店すると、目の前にこれまたレトロなカウンターがあり、そこに一人の男性がにこやかな顔で座っていた。彼は全体的に色素が薄いうえに、薄い色のスーツをきていたため、なんとなくはかない印象を受けた。
カウンターにはアンティーク調の装飾が施された黒板があり、こんなことが書いてあった。
『どんな原石からでもあなただけの宝石を取り出します。
※宝石のパワーは、原石から取り出すまでわかりません』
――『パワー』? なんという怪しい響き。
間宮は少し顔をしかめた。オカルティックなものは好きだが、変なことには巻き込まれたくない。
向かって右側のスペースには、アクセサリーがずらりと並べられており、既製品の販売スペースのようだった。棚やポップなどの装飾もいちいちレトロで興味をそそられる。決して広くないその店内には、他に二人ほど客がいた。
「ね、こっち見よ」
姫野が間宮の手を取って、奥の販売スペースに歩き出した。
「石ってパワーとかあんの?
間宮が率直に自分の意見を述べたが、姫野は楽しそうに笑った。
「おまじないみたいなものだよ。でも、こういうのワクワクしない?」
ポップを見てみると、やっぱりなんだか不思議なことが書いてあった。
『効果:惚れやすくなる』
『効果:夢を見やすくなる』
『効果:笑えるようになる』
「なにこれ……」
間宮は思わず呟いた。
アクセサリーについている石の名前は書いていないのに、効果だけが書いてある。しかもその効果は妙に具体的過ぎるし、売る気があるかわからない効果の石もあった。ポップのデザインは最高にいいのに、いろんな意味でハイセンスすぎる。
「見て見て、間宮。『学びたくなる』石だって! 受験にいいんじゃない?」
しかし、姫野は存外楽しそうだった。間宮は苦笑いしつつ、無邪気な姫野を微笑ましく思った。
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