第1章:人を呪う石

第1話:少女たちの放課後

 間宮マミヤ憂鬱ゆううつだった。理由は先日の中間テストで赤点を四つも取ってしまったので、お小遣いを大幅削減されてしまったからだ。

姫野ヒメノはいいよなぁ、お金持ちのお嬢様だもん」

 浅ましくも他人の家事情をうらやましがるくらいには、余裕がなかった。財布はもちろん、精神的にも。

「間宮はアルバイトできるじゃない。私はアルバイト禁止されてるから、お小遣いを多めにもらってるだけだよ」

 姫野はそんな間宮をなだめて、苦笑いした。

 高校二年の六月。二人は放課後のじめっとした教室に残り、雨がやむのを待ちながら、だらだらとお喋りをしていた。

 間宮は短い髪の毛を無理やり二つに縛った髪形で、一見運動部に所属していそうな健康的な少女だった。実際には帰宅部で、よくこうして部活もアルバイトも親に禁止されている姫野と放課後を一緒に過ごしていた。

 姫野は間宮が言うように裕福な家の娘で、やわらかくウェーブした長い髪にカチューシャを付けており、いかにもお嬢様という見た目だった。

「アルバイトね。この間店長とバイトリーダーが不倫してるところに出くわしちゃって、干されたから辞めたところなんですけどね」

 間宮は苦い経験を思い出し、ますます憂鬱になった。

「うーん。あ、そうだ。川沿いの住宅地のところに、いい感じのお店があるのを見つけたんだけど、今から行かない?」

 姫野は何とか間宮を元気づけようと、気晴らしを提案した。

「何の店?」

「アクセサリーを売ってるお店っ! ダイヤモンドとかの宝石だけじゃなくて、安価な天然石や希少石きしょうせきも扱ってて、学生でも買えそうなのがあったの。お店の雰囲気も工房って感じでね! レトロなアンティーク調ですっごく素敵なんだよ!」

「きしょうせき?」

「パワーストーンとかのこと」

 間宮は首をかしげた。

「それって、このブレスレットを買ったら、家も買えたし彼女もできたし、幸せになりましたーってやつ?」

「その印象はすごくよくわかるけど。発想が昭和ね間宮。あなたいくつ?」

 姫野は可笑しそうに笑った。

「いいよ。なんかお店見るだけでも楽しそう。行こう!」

 間宮は立ち上がり、姫野と一緒に教室を飛び出した。


 そうして少女たちは、人を呪う宝石たちを飼い馴らす奇天烈きてれつな店に、足を踏み入れてしまうのである。

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