3-7 自分を裏切らないために
中庭から食堂に戻るとリーフィがいた。いつも通りだと思ってしまった。こいつが俺を心配そうな顔で待っててくれるのは、もう何度目だろう。
「コジロウ」
恐る恐る声をかけてきた。
「随分、荒れてたね」
中庭で大声を出せば、聞こえて当然だ。
「何か酷いこと言われたの? 本人は黙って部屋に戻って行っちゃったけど」
「判るもんだな、リーフィ」
「え?」
きょとんと目を丸くする。
「攻撃したいのか、当たり散らしたいのか。それとも本当に相手の為を考えてくれてるのか」
――中庭へと振り返る。
余計なお世話。副団長の理屈を一言で切り捨てることは簡単だ。でもそれは、すごくもったいないことのような、気がする。
「久々かもしれない」
「え?」
「絡まれるとか、なじられるとかじゃない。叱られた。町を出て以来だ」
「……意外」
「ん?」
「てっきり噴火した火山の勢いだと思ってたのに、悟ったような顔しちゃって」
「そう見えるか?」
「うん」
はっ、我ながら単純なもんだ。気づけば、あれほど募らせていた副団長への不信が綺麗さっぱり消えている。
言われたこと全てに納得してるわけじゃない。本人が言ってた通り、あれはあくまで副団長自身が得た副団長自身の考え。
今振り返っても、連中――特にクライセンと仲良くやる選択はなかったと思う。
でも、それでも。
真剣に俺の未来を案じてくれていた。言葉じゃなく、その裏にある気持ちが嬉しかった。
「私、ヴィオさんに謝らなくちゃ」
リーフィが口を尖らせた。
「お前が? 何でだよ」
「この間、不信を焚きつけるような事言っちゃったから」
「ああ……」
「本当を言えばね。コジロウを利用してるんじゃないかって、私も疑ってたんだ。でも本人がそう感じたのなら、違うのかな。妙に厳しかったのも、本気で期待して、育てようと思ってたからなのかな」
期待だと。まさか。いや、そういえば。
――あの筋肉女に言われた台詞の数々思い出す。
『このままのあんたじゃ』『早過ぎる』『今はまだ』
厳しい言葉を散々浴びせられて来た。でも、絶対に無理だと言われたことは一度もなかったんじゃないか――?
「折れない奴だと思ってた、か」
俺自身、今の今まで自分をそうだと思い込んでいた。でも。
左手と右手を重ねる。じっと見つめる。冷静に今の自分を振り返る。
「リーフィ」
憑き物が落ちたような、晴れやかな気分。
「俺、団長の話、断るよ」
「えっ」
「直属行きは止める」
「コジロウ」
「でも、いつか」
拳を握り締めた。
「今は見送るけど、いつかまた自分で手繰り寄せて見せる。好機を掴み取って見せる」
赤面ものの台詞を口にすると、リーフィがぽかん、と口を開けた。でもそれは一瞬のこと。
「そっか。わかった」
俺の決断に、笑顔で頷いてくれた。
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