終幕は寝室で
布団から、窓の外の月を眺める。すぐに
あの後頭が真っ白になった私の代わりに、彼は会計を済ませ、ここ――祖父母の家まで私の手を引いて歩いた。涙をこらえるその顔が、今でも鮮明に思い出せる。
玄関を開け、挨拶もそこそこに家にあがり、連れてこられたのは仏間だった。
そして目に入る、兄の写真。
それを見た瞬間、溢れる涙と共に記憶が蘇った。ずっと目をそらしていた、受け止めなかった記憶。
ぽんっ。
聞いたことのある音に、顔を上げる。
「唯ちゃんはずっと、夢を見ていたんだねっ」
あの時のように、バクは宙に浮いている。月の明かりが差し込む部屋で、その表情だけが見えない。
「残されたたった一人の家族とずっと一緒に生きること。
これが唯ちゃんの夢見たことで、今まで見ていた夢だよっ。
大抵の人間は無意識のうちに、寝ている時の夢と起きている時の夢のバランスを上手く取るんだけどね。
今回の唯ちゃんの場合は、起きている時に見ている夢の暴走、と言ったほうが分かりやすいかなっ?
白昼夢に囚われてたんだ」
淡々と告げられた事実に、自分の弱さを突きつけられているような気がして、悔しさや虚しさが湧き上がる。
今だから理解できる。
眠れなかったのは、悪夢を見るからだ。兄が死んだと聞かされたあの日を繰り返し見せられる悪夢。それがとても嫌で、苦しくて。
悪夢によって現実が突きつけられることから逃げて、現実世界で優しい夢を見続けた。
「夢は道標であり、宝物でもある。その星のような輝きが、人を惹きつけるんだね。でもね、その反面夢は人を絡めとり、陥れることもあるんだよっ」
小さな手で、やんわりと頬を包まれる。冷たい手だ。
「でも覚えててね、唯ちゃん。
夢はどんな時でも、どんな状況であっても、変わらず美しいものだよっ。
醜いのは、それを望む人間の心なんだ」
目の前に、水晶の目がある。私の目を通して、すべてを見透かしているようだ。
にんまりとその顔が歪む。
「可哀想な唯ちゃん、安心して、もう大丈夫だよっ。
ぼくは夢喰いバク。
君の夢、ぼくが全部食べてあげるねっ」
「いただきますっ!」
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