76.ゲーム




 クラス内で流行ったそれが広がる前に止められなかった事を、今でも後悔している。


『ゾンビゲーム』


 いつしかそう呼ばれるようになったゲームは、最初は他愛もないものだった。




 遊び方は至って単純。

 ゾンビと鬼役を決めて、鬼ごっこをする。

 鬼に捕まったら、ゾンビは鬼に変わる。


 ただしその場にゾンビが鬼よりも数がいて、捕まえると鬼はゾンビへと変わってしまう。



 それだけじゃ固まって行動してしまう事が増えたので、もしゾンビが多かったとしても鬼は1回だけ銃を使えるルールが出来た。


 その銃を使うと、ゾンビは死ぬ。

 そして死んだゾンビはそのままゲームから離脱。

 次のゲームの時もゾンビスタートで、それまで不名誉な称号を得たままだ。


 銃を使えるのは、残っている鬼が全員で固まっている時だけ。

 だから遊んでいる時は情報交換の為、携帯で連絡か大きな声で叫ぶ。



 最大の特徴は、どんなに時間が経ったとしても鬼に全員が捕まるか、全員がゾンビになるまでは終わらない事だ。

 もし遊んでいる最中、休み時間が終わったとしたら、次の休み時間の時に同じ状態からスタートする。


 その間、少数派の方は人としてではなく、それよりも下の存在として扱われる羽目になる。

 それが嫌だからこそ、少数派にならない様に必死だ。



 誰が考えついて始めたかは分からないこのゲームは、一気に広まりみんなが遊ぶ様になる。

 最初は普通だった。

 しかしいつしか、このゲームは予想もつかない変化を遂げていく。





「今日の当番・田中、大木」


 後ろの黒板に書かれた小さな文字。

 それを消してしまいたい衝動に駆られながらも、俺は見て見ぬふりをした。




 その文字は生け贄の名前。

 昨日、少数派になった人達。


 この2人はゲームが終わるか、多数派になるまで地獄の日々を送る。


「田中ー!大木ー!分かっているんだろうなー!」


 クラスメイトの1人が大きな声で言う。

 それに反応する様に、教室の中が嫌な笑い声で溢れていく。

 言われた2人はうつむき、何も言わない。



 敗者に人権はなし。

 そういう風に決められたのは、最近だった。

 そして先生に気付かれないように、嫌な事を押し付けられ奴隷よりも酷い扱いを受ける。



 誰も止めない。

 冷静に考えれば分かる事なのに。



 しかし俺はゲームに参加せず、クラスを離れた所で見るだけしか出来ない。





 そして溜まっていた恨みは、ついに爆発した。


「ふざけんじゃねえよ!!」


 生贄になる回数が多い1人が、ある日机を投げて暴れ始めた。

 それまでそいつの周りを囲んで色々とやっていた奴等は、悲鳴をあげて逃げる。


 しかし次々と飛ぶ机や椅子に当たり、倒れると動かなくなった。

 俺は驚きと恐怖で動けなくなり、その様子を見つめる。



 しかし何もしていない俺は大丈夫だろう。

 そう楽観視をしていた。


 だから飛んできた机を避ける暇が無かった。



 俺を狙って飛んできた衝撃で吹っ飛びながら、疑問が溢れ出る。


 何故、俺が。




 床に倒れ込んだ俺に近づいたそいつは、髪を引っ張って持ち上げ耳元で囁いた。



「何でゲームに参加していないお前にも、こんな扱いを受けなきゃいけないんだよ。馬鹿にしたような目で見てんじゃねえよ、クソが。」



 話し終えると、叩きつけられた頭。

 血がどんどん流れ出して、このまま死んでいくのかと怖くなる。



 暗くなる意識。

 最後に思うのは、何故このゲームが広がる前に止められなかったのかという後悔だけ。






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